第49話 ブレイダーの掟

 気を失ったクルミが生け贄として置かれた祭壇のある部屋で、アルソルとシルバーブレイダーはマスターブレイダーとの決戦に挑んでいた。
「うおおおおおお!」
 銀河刀を手に、マスターブレイダーへと突進するシルバーブレイダー。相手が間合いに入るや否や、全力を籠めて大振りに斬った。マスターブレイダーは不動のままそれを受け、斬られた場所が即座に再生する。
「マスターブレイダー! 親父とお袋の仇ーっ!」
 己の怒りを力に変えて、シルバーブレイダーは斬って斬って斬りまくる。それが全く効果の無いものであると知っていながら。
「仇だと? このマスターブレイダーが、何故同族を殺す必要がある?」
「忘れたとは言わせねえぞ! 俺はずっと外の世界に出たがっていた。だがブレイダーの掟では、里の外に出られるのは族長とデスエレメンツだけ。一般のブレイダー族は陽の光すら浴びることのできない暗くて狭っ苦しい里で一生を過ごさなければならない! 俺はそんな窮屈な掟が嫌で里を出たかったんだ! 俺の両親は、そんな俺の夢に協力してくれた。一緒に里の外に出ようとしてくれた。だが結局捕まり、お前の手によって処刑されてしまったんだ! 両親は俺の存在を最期まで隠し続けた。そのお蔭で俺はこの歳まで成長し、ひたすらお前を倒すためのトレーニングに明け暮れることができたんだ。そして今こそ、この手でお前を打ち倒す時だ!」
「一般のブレイダーなど、族長とデスエレメンツの強さによって与えられる恵みで生かされていればよい存在なのだ。それが外に出ようなどと思い上がり甚だしい行動に出れば、殺されて当然! 貴様の親が死んだのは自業自得だ!」
「違う! こんなくだらない掟が無ければ、親父とお袋は死なずに済んだんだ!」
 肉片レベルまで滅多切りにしても尚、マスターブレイダーは再生する。だがシルバーブレイダーの行動は、決して無意味なものではなかった。
 シルバーブレイダーがマスターブレイダーを引きつけている間に、アルソルは離れた位置で剣にエネルギーを溜めていた。そしてエネルギーが溜まりきったところで、飛ぶ斬撃をマスターブレイダー後ろの祭壇目掛けて放った。マスターブレイダーは大剣でシルバーブレイダーを弾き飛ばすと、自ら飛ぶ斬撃に突っ込んで盾となる。
 マスターブレイダーは自身の不死身性を巧みに戦術に組み込んでいた。だが、不死身故の慢心も大きかった。マスターブレイダーは、アルソルの竜皇斬の威力を見誤っていたのだ。マスターブレイダーの身体を真っ二つにした竜皇斬は、そのまま後ろの祭壇を粉々に破壊した。シルバーブレイダーは落ちてきたクルミを抱えて救出する。
「よっしゃ! これで俺達の勝ちだ!」
 シルバーブレイダーが歓喜の叫びを上げる。だが直後、マスターブレイダーの身体は一つに戻った。
「ぐ……ハァ……ハァ……どうにか再生は間に合ったようだな……」
 マスターブレイダーは息を切らしており、切れ口からは血が流れている。神の加護が切れる前に再生を行い、ギリギリで身体をくっつけたものの完全回復には至らなかったのだ。
「くそっ、マスターブレイダーと祭壇を同時にぶった斬れりゃそれで終わりだと思ってたのによ」
 クルミを安全な場所に置いた後、シルバーブレイダーは言う。
「だが、これでもう奴は再生能力は使えない。後は二人がかりで倒すだけだ」
 アルソルとシルバーブレイダーは、苦しそうにしゃがみ込むマスターブレイダーに歩み寄る。だが、マスターブレイダーは不敵に笑っていた。
「ク、クク……このマスターブレイダーがここまで追い詰められようとはな……だが、祭壇を通して送られる不死身の加護が消えようとも、神が直接与えてくれる戦闘能力二倍の加護が消えることはない。そしてここからは祭壇を守りながら戦う必要が無くなったことで、我も本気で戦えるのだ」
 まるで巨木を持ち上げるように立ち上がったマスターブレイダーは、大剣を構えその先端をギラリと光らせる。
「ここからが本当の戦い、ってわけか」
 アルソルとシルバーブレイダーの額に、冷や汗が浮かんだ。

 アルソルとシルバーブレイダーが最後の決戦に挑む中、他の戦士達もそれぞれの戦いに身を投じていた。
 牢屋前で一般ブレイダーの大群を相手にするトゥンバは、終始優位に戦っていた。
「トゥトゥトゥ、トゥンバーッ!」
 自らの体を空中で大回転させ、周囲の敵を一気に吹き飛ばすトゥンバ。彼のダンシング殺法は複数の敵と戦うのに有利であるため、この場の守りには最適な人材であった。
「俺の黒さに、お前達は勝てない!」
 全ての敵を倒したトゥンバは、ドッパーの方を見る。
「おや、そちらも終わったようだな」
 ドッパーはこくりと頷いた。

 アクアブレイダーと戦うやすいくんは、苦戦を強いられていた。四方八方から遅い来る水の鞭が、呻りを上げてやすいくんの体を打つ。水流を巧みに操るアクアブレイダーには、やすいくんの鉄壁の防御力をもってしてもその攻撃を完璧に防ぐことはままならなかった。
(くっ、この程度の攻撃、スイクンさえいれば問題無くかわせたというのに!)
 鞭に打たれ、体力を奪われてゆくやすいくん。だがその目から光は失われていない。
(だが水晶騎士の名にかけて、こんな卑怯者に負けるわけにはいかない!)
 やすいくんは剣を逆手に持ち、先端を床に突き刺す。
「クリスタルスパイク!」
 やすいくんの周囲を囲むように、水晶柱が出現。水の鞭を防ぐ壁となった。
「そんなもので俺の攻撃が防げるか! 真上ががら空きだ!」
 アクアブレイダーは水の鞭を巧みに操り、水晶柱の守りが無いやすいくんの頭上から攻撃を仕掛ける。
 だが、やすいくんの狙いはそこにあった。アクアブレイダーの意識が頭上に向いた瞬間を狙って、やすいくんは全ての水晶柱を砕け散らせる。それと同時にアクアブレイダーへと駆け出し、すれ違いざまに切りつけた。
「ぐばあっ!」
 鋭い一撃を受けて、アクアブレイダーは前のめりに倒れた。
 やすいくんは相手が戦闘不能になったことを確認すると、先に進んでいった仲間達と合流すべく通路の奥へと走っていった。

 カモンベイビーとエアロブレイダーの風使い対決は、実力が拮抗していた。エアロブレイダーの操る竜巻は攻防一体で、全く隙を感じさせない。
(くそっ、俺のふうかぜトルネイドに匹敵する風を起こせるとはな。だったら俺にも手があるぜ!)
 カモンベイビーはポケットから円錐状の物体を取り出した。
「見せてやるぜ、俺の新兵器! カモ・カモ・バスターDX!」
 円錐の先端に紐が付き、本体には「DX」の文字が書かれた奇妙な新兵器。それはエアロブレイダーにとって、初めて見るものであった。


「な、何!? 新兵器だと!?」
 焦るエアロブレイダー。したり顔のカモンベイビーは、カモ・カモ・バスターDXの紐を引っ張った。
 パン、と大きな音が鳴り、円錐の円側から紙吹雪が飛び出す。それは明らかに攻撃性能が無かったが、エアロブレイダーは驚いて目を瞑ってしまう。
「今だ! ドラクチャキック!」
 その隙を突いて、全力で顔面ドロップキック。顔がへこんで吹っ飛んだエアロブレイダーは壁に叩きつけられた。
「ひ、卑怯だぞ……」
 そう言って気を失うエアロブレイダーに、カモンベイビーは返す。
「卑怯上等。俺はわたあめややすいくんみたいな優等生じゃないんでね」
 カモ・カモ・バスターDXの正体は単なるクラッカーであった。相手を騙して隙を作る、カモンベイビーらしい新兵器である。

 祭壇部屋の扉の前で、わたあめはサンダーブレイダーと対決していた。
 轟音と共に連続して落ちる雷を、わたあめは軽やかな足取りでかわしてゆく。わたあめが接近すると、サンダーブレイダーは今度は稲妻の剣で突いてきた。わたあめはふんわりガードでそれを防ぐ。わたの弾力で後ろに跳ね返されたサンダーブレイダーに対し、わたあめはすかさず反撃の拳を打った。
「わたたきパンチ!」
「ぐほっ!」
 吹っ飛ばされたサンダーブレイダーだったが、なんとか踏みとどまり体勢を立て直す。
「なかなかやるじゃねえか。だったらこいつを喰らわせてやる!」
 サンダーブレイダーが取り出したのはデスプラントの種である。投げた種はわたあめの体に付着する。
「これはドッパーとロイヤルブイプルを苦しめたデスプラント! だがこの種は水が無ければ何の意味も無いはず……」
「く……しまった!」
 何か発芽させる手段をサンダーブレイダーが用意しているのではないかと考えたわたあめだったが、予想に反してサンダーブレイダーはこのままでは発芽しない種を何も考えず投げていただけであった。
「くそっ、アクアブレイダーさえいれば!」
 その隙にわたあめは体から種を剥がし取り除く。
「そっちの切り札はもう通用しない!」
 わたあめはわたたきパンチとわたたキックの連続攻撃を繰り出す。サンダーブレイダーが仰向けに倒れたところで、次はあえて後ろに跳んで距離をとる。
「僕の新必殺技、今こそ試す時だ!」
 わたあめは両脚を開いて立ち、右手に掴んだわたにエネルギーを溜める。溜め投げが両手で持ち頭上に掲げたわたにエネルギーを溜めるものだが、この技の型は明らかに異なっている。
 サンダーブレイダーが起き上がろうとする間に、わたあめは十分なエネルギーを溜め終えた。そして相手が起き上がり身構えようとした瞬間、わたあめは駆け出す。
「わた溜めパンチ!」
 エネルギーが溜まったわたを、ダッシュしながら突き出すわたあめ。通常のわたたきパンチの何倍もある強烈な力が、サンダーブレイダーにぶち当たった。相手に当たってもわたあめのダッシュは止まらず、後ろの鉄扉に拳と相手を叩きつける。わたは大爆発を起こし、鉄扉を粉砕した。口から煙を吐き白目を向いたサンダーブレイダーは、祭壇部屋の中に吹っ飛ばされガクリと気を失った。
「ぬう……」
 倒されたサンダーブレイダーを見て、マスターブレイダーが呻り声を上げた。
「アルソル! シルバーブレイダー!」
 わたあめは二人の仲間の名を叫ぶ。アルソルとシルバーブレイダーは、いくつもの切り傷を体に受けて床に這いつくばっていた。
「くそ……これがマスターブレイダーの本気か……」
「強い……想像以上に……」
 起き上がろうとする二人を守るため、わたあめは前に出る。マスターブレイダーはあえて追撃をせず、二人が起き上がるのを待った。
「ククク……生け贄が三人に増えた。デスエレメンツ如きに勝ったくらいでいい気になるな。神の御前で貴様ら三人、我が纏めて倒してくれようぞ」
 片手で持った大剣の先をわたあめに向け、マスターブレイダーは堂々と宣言する。
「一瞬でも油断すれば殺されるぞ、わたあめ」
「うん、わかってる!」
 三人は横並びに立ちお互いに目を見合わせた後、掛け声と共に駆け出した。
「行くぞ!!!」

 

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