第48話 銀色の反逆者

 落とし穴に落ちたわたあめ達は、闘技場の更に地下深くにある牢屋へと閉じ込められていた。
 灯りは鉄格子の外に小さな燭台があるのみで、牢屋の中は薄暗い。
「……それでアルソル、だからお前はわざと負けたってのか!? そのシルバーブレイダーとかいう奴を信用しちまったってのかよ!?」
 負けた経緯を話したアルソルに対し、カモンベイビーは怒りを露にした。
「ああ、彼の真っ直ぐな目は信用に値するものだった」
「ざっけんじゃねえ! それで騙されてたらどうすんだ! 俺らみんな生け贄にされて死ぬんだぞ!」
「そうは言うけど、マスターブレイダーの傷が自動で癒えていったのは事実だよ。あれは僕の特性回復薬にも匹敵する……いや、それ以上の治癒力だ」
 狂ったように捲し立てるカモンベイビーの横で、ドッパーが傷を負ったごつごつあめの手当てをしながら言った。
「アルソルがそう言うなら、僕もシルバーブレイダーを信じたいと思う」
 わたあめが言った。
「得体の知れない相手を簡単に信じてしまう辺りがまさにわたあめの兄だな。良くも悪くも」
 やすいくんが呆れつつもどこか嬉しそうに言う。
「お、誰か来たみたいだぞ」
 足音と共に小さな灯りがこちらに近づいてくることに、トゥンバが気付いた。皆は話すのを止め静まり返る。
「約束通り迎えに来たぜ、アルティメットソルジャー」
 松明を持ってやってきたのは、シルバーブレイダーであった。シルバーブレイダーは牢の鍵を開ける。
「本当に来たのか……」
 カモンベイビーは驚いた顔を見せた。
「まずは教えて貰おうか、不死身のブレイダーガーディアンを打ち破る方法を」
 トゥンバが前に出て、シルバーブレイダーに詰め寄る。
「ああ。この里の中には族長と幹部しか入れない祭壇があってな、そこにある御神体を破壊すれば神の加護は消えるはずだ」
「なるほどな」
「だがその祭壇はマスターブレイダー自身が守っている。だからマスターブレイダーと戦いながら祭壇の破壊を試みるしかねえ。のんびりしてる暇はねえぞ。早く行かないと、あのクルミって女の子が生け贄にされちまう」
「何だって!?」
 アルソル、わたあめ、カモンベイビー、やすいくん、トゥンバはシルバーブレイダーの開けた扉から牢の外に出た。
「あれ、ドッパー先生は出ないのか?」
「怪我人がいるからね、僕は彼らを看ていないといけない」
 カラリオ、キツネ男、ロイヤルブイプル、ごつごつあめは気を失ったままであり、動けない状態にあった。
「彼らが目を覚ましたら、一緒に君達を追いかけるよ」
「わかった。よしシルバーブレイダー、その祭壇のところまで案内してくれ」
「ああ、任せとけ」
 シルバーブレイダーはそう言うと、松明を階段の方に向けた。
「まずはあの階段を上ってくぞ。暗いから足下気をつけろよ」
 そう言ったところで、その階段から無数の足音が聞こえてきた。松明に照らされたその姿は、頭に岩を載せたアースブレイダーである。その後ろには、手下の一般ブレイダーが十人もいた。
「シルバーブレイダー! 貴様一体何をしている!」
 捕らえられたわたあめ達を逃がそうとするシルバーブレイダーに、アースブレイダーは驚愕して怒鳴った。
「決まってんだろ、これからこいつらと一緒にマスターブレイダーを倒すのさ」
「貴様……血迷ったか!」
 アースブレイダーは岩の剣を抜き身構える。だが次の瞬間、アースブレイダーはばたりと倒れ階段を転がり落ちていった。騒然とする一般ブレイダー達。
「てめえの防御力なんざ、俺の銀河刀の前じゃ紙同然だぜ!」
 目にも留まらぬ速さで刀を抜いたシルバーブレイダーが、居合いの一閃でアースブレイダーを倒したのだ。
「ぐ……おのれ裏切り者め……お前達、奴らを捕らえよ!」
 床に臥せり血を流しながらも、アースブレイダーは力を振り絞って指示を出す。一般ブレイダー達は一斉に突撃した。
「ちっ、ザコに構ってる暇はねえんだがな」
 シルバーブレイダーがそう言ったところで、無数の泡が一般ブレイダー達の行く手を遮った。無数の泡は寄り集まって大きな泡となり、一般ブレイダー一人一人を閉じ込める泡の牢獄となる。
「多人数の敵を同時に相手にするなら俺が適任だ。こいつらの相手は俺がしよう」
 トゥンバの黒い肌が松明の明かりに照らされて輝いた。
「トゥンバ!」
「大丈夫だ、どっちにしろドッパー達を守るためには戦える奴が一人ここに残る必要があるからな。ごつごつあめ達が目覚めたら一緒に合流するつもりだ」
「わかったよ。頑張ってトゥンバ」
「よし、ここはあいつに任せて行くぞお前ら!」
 シルバーブレイダーを先頭に、わたあめ達は泡を掻き分けながら階段を駆け上がった。
 全員が階段を上りきった後で、一般ブレイダー達を閉じ込めていた泡は割れる。
「貴様、妙な技を使いやがって! ぶっ殺してやる!」
「ダンシング殺法の真髄は、多数の敵と戦う時にこそ発揮される。今こそ見せてやろう、トゥーンの極みを。トゥトゥトゥトゥンバーッ!」
 一斉に襲い来る一般ブレイダー達を、トゥンバは踊りながら迎え撃った。

 階段を上りきったわたあめ達は、幅の狭い通路に出た。
「こっちだ!」
 シルバーブレイダーは走りながら奥を指差した。
「待っててくれクルミちゃん! 君の王子様、カモンベイビーが助けてやるぜ!」
 ヒーローになろうと逸るカモンベイビーが足を速め、シルバーブレイダーを追い抜いた。その時、正面奥の暗がりからキラリと光るものが。
「危ない!」
 やすいくんがだっと駆け出し、カモンベイビーの前に出る。次の瞬間、一直線に飛来する高圧の水鉄砲がやすいくんの盾を貫いた。
「ぐっ……」
 水鉄砲を受けた左手から血が垂れる。やすいくんは痛みに顔を顰めながら、床に膝をついた。
「大丈夫か、やすいくん!」
「ああ、どうやら敵が俺達を狙っているらしい」
「野郎……」
 カモンベイビーはカモンブラスターを抜き暗がりに向ける。すると水鉄砲を撃った主は、わざわざ暗がりから姿を現した。
「ちっ、仕留め損なったか。だがこの先にてめえらを通すわけにはいかねえ」
 水を使った攻撃をしてきた時点で皆は察していたが、出てきたのはアクアブレイダーである。
「死ね!」
 アクアブレイダーが水の剣を振ると、水の剣は巨大な水流の鞭へと変化。わたあめ達を纏めて倒そうと、それを叩きつけるように振り回してきた。それに対しやすいくんはクリスタルバリアを展開。皆の盾となり水の鞭を一身に受け止めた。
「この男は俺が倒す。皆は先に進んでくれ」
 バリアで水の鞭と押し合いながら、やすいくんは言った。
「ありがとうやすいくん!」
 わたあめ達はやすいくんとアクアブレイダーの横を抜け、シルバーブレイダーの指差す先へと駆け出した。
「くそっ、行かせるかよ!」
 わたあめ達を逃がすまいと水の鞭をそちらに向けようとしたアクアブレイダーだったが、やすいくんから目を離した瞬間床から突き出した水晶柱に突き飛ばされる。
「ぐおおっ!?」
「貴様の相手は俺だ。ブレイダーバトルでドッパー先生とロイヤルブイプルさんにした卑劣な手段、忘れはしないぞ。水晶騎士の名にかけて、貴様は俺が必ず倒す」
「デスプラントを使ったのはサンダーブレイダーだ! 俺は止めようとしたんだぞ!」
 着地したアクアブレイダーは自らの名誉を守るため、そのことだけははっきりと否定した。

 通路を暫く進んで行くと、一躍して開けた大部屋に出た。
 この時点で何かが来る、と皆が察していた。
「ケケーッ! 裏切り者には死だーっ!」
 風の如く現れ、シルバーブレイダーに襲い掛かるエアロブレイダー。
「そうはさせねえ!」
 カモンベイビーのふうかぜマントが、エアロブレイダーを吹き飛ばした。
「クルミちゃんは俺が直接助けたかったが……相手が風使いなら俺が相手するしかねえな」
 マントをばさりと翻し、どこから取り出したのか花束を手にかっこつけるカモンベイビー。
「わたわ町じゃ決着つかなかったからよ、どっちが最強の風使いか決めようぜ」
「断る。裏切り者の始末が優先なんでね」
 エアロブレイダーはカモンベイビーを無視し、風に乗って宙に浮かびながらシルバーブレイダーに突撃する。
「危ない!」
 シルバーブレイダーを庇い、わたあめがふんわりガードを使った。わたの弾力に阻まれ、エアロブレイダーは後ろに押し出される。
「すまねえ、助かった」
「気にしなくていいよ。僕達はもう仲間だからね」
 礼を言うシルバーブレイダーに対し、わたあめは快く返した。
 エアロブレイダーは再びシルバーブレイダーの方へと向かう。
「カモンブラスター!」
 光線の一撃がエアロブレイダーの頬を掠めた。エアロブレイダーは直撃を避けるため進行方向と逆に風を起こして後退する。
「ちぃっ!」
「お前ら、ここは俺に任せて先に行け!」
「そうだ、今はエアロブレイダーに構っている場合じゃない!」
 わたあめ、アルソル、シルバーブレイダーはカモンベイビーに背を向けまた走り出した。
「絶対にクルミちゃんを助けてこいよ!」
 エアロブレイダーの行く手を遮るように立ちはだかるカモンベイビー。エアロブレイダーはぐぬぬと歯軋りをした。

 大部屋を抜けたわたあめ達は、細く曲がりくねった通路を突き進む。
「あとちょっとだ!」
 走りながら奥を指差すシルバーブレイダー。その指先が示す場所に、大きな鉄扉が見えた。
「あの扉の向こうが祭壇部屋だ! 急げ!」
 と、その時。突如として通路内に稲妻が迸った。
「案の定出てきやがったか!」
 落雷を避けながら、シルバーブレイダーが言う。サンダーブレイダーが天井から降り、扉の前に立ちはだかった。
「祭壇に行かせるわけにはいかねえ。このサンダーブレイダーが最後の砦だ」
「デスエレメンツめ、律儀に全員出てきやがって。てめーらと遊んでられるほど俺らは暇じゃねえんだ」
 シルバーブレイダーは銀河刀に手をかけ、銀河一閃の構えをとる。
「わたたきパンチ!」
 だが最初に仕掛けたのはわたあめだった。サンダーブレイダーが拳をかわしたところに、続けざまでわたたキックを放つ。
「今だアルソル! シルバーブレイダー!」
 サンダーブレイダーを蹴飛ばして扉の前から退かしたわたあめは、二人に向かって叫んだ。
「わたあめ、君は……」
「マスターブレイダーとは君達二人が戦うべきだ! 僕はサンダーブレイダーを倒す!」
「わかった。必ずやマスターブレイダーを倒し、クルミちゃんを救ってみせる!」
 わたあめがサンダーブレイダーを押さえているうちに、アルソルは鉄扉に手をかけ力を入れた。
 軋み音を立てながら開いてゆく鉄扉。そしてその奥に見えるは石造りの祭壇と、仁王立ちするマスターブレイダー。シルバーブレイダーとアルティメットソルジャーは剣を抜き身構えた。
「行くぜアルソル、マスターブレイダーの野郎をぶっ倒すぞ!」
「ああ、これが最後の戦いだ!」

 

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