第50話 ブレイダーガーディアン降臨

「わたたきパンチ!」
 わたあめの拳をマスターブレイダーは大剣で受け、そのまま押して弾き返す。わたあめを囮にして後ろに回り込んだシルバーブレイダーは、マスターブレイダーの背中目掛けて切りつける。マスターブレイダーは大剣から手を離し、後ろのシルバーブレイダーに肘鉄を打った。吹っ飛んで壁に叩きつけられるシルバーブレイダー。すかさず、マスターブレイダーは大剣を手に取りアルソル目掛けて振り上げた。横から切り掛かろうとしていたアルソルは素早く盾を前に出し防御するも、大剣の重さによって押されこちらも後ろの壁に叩きつけられる。
「わたたキック!」
 わたあめはわたを足に装備し、マスターブレイダーの顔面目掛けてジャンプ回し蹴りを放つ。だが切り返しに振り下ろされた大剣によって、その蹴りは阻まれた。
「つ、強い……!」
「ククク……貴様ら如き雑魚が、この我に敵うとでも思ったか! 大人しく生け贄にされるがいい!」
 マスターブレイダーはその巨体でわたあめを見下ろし、大剣で突き刺そうと刃先を向ける。
「逃げろわたあめ!」
 翼を広げたアルソルが突撃し、盾でマスターブレイダーを突き飛ばした。
「油断するな! 相手はマスターブレイダーだぞ!」
「ご、ごめんアルソル!」
「その通りだぜわたあめ」
 突如、背後からそんな声が聞こえた。その直後、わたあめの横をビームが掠める。マスターブレイダーは大剣でそれをガードした。
「カモンベイビー!」
 カモンブラスターを手にしたカモンベイビーが、かっこつけた表情で扉を開けて立っていた。
「風使いは倒してきた。こっからは俺も一緒に戦うぜ!
「ありがとうカモンベイビー!」
 心強い味方の登場にわたあめは喜ぶ。掌で頬を叩き、自分に気合を入れ直した。
「たかが一人増えたくらいで何になる」
「見てろよクルミちゃん、俺の超カッコイイ姿を!」
 カモンベイビーは大きく跳び上がり、空中からカモンブラスターを連射。ビームの弾幕がマスターブレイダーに襲い掛かる。
「効かぬわ!」
 大剣の一薙ぎ。ビームの雨を物ともしない、圧倒的な力。だがマスターブレイダーの意識が空中に引き付けられたところで、シルバーブレイダーが低い姿勢で突進。相手の懐に飛び込み、一筋の剣閃。
「ぬう!?」
「もう再生はできないんだったよな?」
 ダメージを入れることに成功したシルバーブレイダーは、相手の顔を見て軽口を叩く。
「だからどうした!」
 怒り任せに振り下ろした大剣が床を砕き、シルバーブレイダーはその衝撃で吹き飛ばされる。
「竜皇斬!」
 そこにアルソルが、必殺の竜皇斬で斬撃を飛ばした。マスターブレイダーはすかさず大剣で斬撃を斬って防ぐ。
「効かぬわ雑魚どもめが!」
「へへっ、そいつはどうかな」
 後ろから聞こえた声に反応して、マスターブレイダーが振り返る。ふうかぜマントで空中を移動したカモンベイビーが、クルミを救出していたのだ。
「助けてやったのは俺だぜクルミちゃん。ムチュ〜」
「カモンベイビー! ふざけてる場合じゃないぞ!」
 気絶しているクルミにキスしようとしたカモンベイビーを、アルソルが叱る。
「ちっ、人質を奪われたか。だが所詮貴様らはその人質と一緒にここで死ぬのだ。我らが神の生け贄となってな」
「僕達は負けない。お前を倒して、わたわ町に帰るんだ!」
 エネルギーを溜めて巨大化したわたを頭上に掲げながら、わたあめが言う。
「喰らえ! 溜め投げー!」
 わたあめの投げた巨大なわたは、突進する猛獣の如くマスターブレイダーに迫る。
 マスターブレイダーは大剣でそれを受け止め、真っ二つに切ろうとした。だがわたの弾力はそれを許さない。
 光を放ち、爆発するわた。マスターブレイダーはその衝撃を全身に受けた。
「竜牙連斬!」
 爆風の中、アルソルは翼を広げて突っ込む。マスターブレイダーとのすれ違いざま、目にも留まらぬ早業でアルソルは十回斬った。
「ぬわああああ!」
 全身からの血飛沫と同時に、マスターブレイダーは悲鳴を上げる。
「これだ俺達の力だ!」
 地に膝をつくマスターブレイダーに、アルソルは剣先を向ける。
「ぐ、ぐぐぐ……我がここまで追い詰められるとは……」
 悔しさに歯軋りするマスターブレイダー。
「だがまだ終わりではない。我にはまだ切り札がある!」
 マスターブレイダーは立ち上がり、両手を上げて天を仰ぐ。
「ブレイダーガーディアン様! 我に力をー!」
 雄叫びに呼応し、突如天井から光が降り注ぎマスターブレイダーを包み込む。
「な、何だ!?」
 皆が驚く中、マスターブレイダーの全身が蠢き変化してゆく。
「そういえば聞いたことがある……ブレイダー族の族長はブレイダー族の神、ブレイダーガーディアンをその身に降ろし変身できるって!」
「何だって!?」
 シルバーブレイダーの言葉通り、マスターブレイダーの姿はみるみるうちに変わってゆく。
 身体は膨張し、全身が鱗に包まれる。手足には鋭い爪が生え、さながら爬虫類のような様相に。首はキリンのように長く伸び、頭部は人の顔から竜の顔へと変形。背中からは大きな翼が生え、更に両肩から一本ずつ首が生えその先に竜の頭が現れた。
 つい先程まで人間の姿をしていたことが嘘のように、その姿は原形を留めていなかった。恐ろしい巨体を持つ三つ首のドラゴン。神降ろしとは、神そのものに変身することなのである。


「我はブレイダーガーディアン……ブレイダー族の神なり」
 ブレイダーガーディアンの声は、まるでエコーがかかっているように聞こえた。
 マスターブレイダーの肉体を依り代してこの世に顕現した神の姿に、カモンベイビーは恐れを抱く。
「ヤ、ヤベえ! あんなの勝てるわけがねえ!」
「落ち着けカモンベイビー!」
「だって神様だぜ!?」
「大丈夫だ、俺達ならやれる」
「アルソル……」
 カモンベイビーはアルソルの目を見て頷く。
「とにかくやってるぜ! カモンブラスター!」
 怯えている場合ではないと、カモンベイビーはカモンブラスターを発射。ビームは胴に当たるが、硬い鱗に阻まれブレイダーガーディアンは無傷である。
「お、俺のカモンブラスターが通じないだと!?」
「我に刃向かう者達よ……自らの愚かさを悔いて滅びるがよい……」
 ブレイダーガーディアンの三つの口が開き、そこにエネルギーが溜まってゆく。
「来るぞ! 伏せろみんな!」
「ガーディアン・ブラスト!」
 三つの口から同時に発射された破壊光線が、わたあめ達に襲い掛かる。


「クリスタルバリア!」
 突如やすいくんの声が響き、わたあめ達の前面に水晶のバリアが張られた。
「やすいくん!」
 どうにか間に合ったやすいくんが、必殺のバリアで皆をサポートしに現れたのだ。
 やすいくんはわたあめ達の前に走って出て、気合を入れてバリアをより強固にする。だが強烈過ぎる破壊光線は、バリアに容易く皹を入れた。
「ぐ……俺のバリアでもあれは防ぎきれそうにない……!」
「だったら俺も加わるぜ! バブルバリア!」
 クリスタルバリアの表面に泡のコーティングがされ、バリアが二重になる。
 踊りながら姿を現したのは、黒きサイボーグ・トゥンバである。
「水晶の硬さと泡の柔らかさが合わさったこのバリアは最強だ!」
 トゥンバの言葉通り、バリアの強度は格段に増しガーディアン・ブラストを受けてもびくともしない。
「す、凄え!」
 この圧倒的な頼もしさに、カモンベイビーはガッツポーズ。
「無駄だ!」
 ブレイダーガーディアンがそう叫ぶと共に、光線の勢いが増した。
「まずい! 逃げろみんなー!」
 トゥンバが叫ぶ。わたあめ達が一斉に散らばる中、やすいくんとトゥンバはバリアは少しでも持たせるため必死で堪えた。
 砕け散るバリア。二人はバリアのお蔭で光線の直撃こそ受けなかったものの、衝撃によって吹き飛ばされ後ろの壁に背中を打ちつけた。
「やすいくん! トゥンバ!」
 光線から退避していたわたあめ達が、二人に駆け寄る。
「く……俺達は大丈夫だ。それより次の攻撃が来るぞ!」
 ブレイダーガーディアンは再び口の中にエネルギーを溜めてゆく。
「神を愚弄する者どもに裁きを……大人しく生け贄になるがよい!」
「守ってばかりでは勝てない! ここは俺に任せろ!」
 アルソルは翼を広げて飛び立つ。そしてブレイダーガーディアンの喉を剣で切りつけた。
 甲高い金属音が鳴る。ブレイダーガーディアンは喉も鱗に覆われており、刃はまるで通らない。
 だがアルソルの狙いは別にあった。顎につけた剣を押し上げ、ブレイダーガーディアンの口を力ずくで閉じさせる。溜め込んだエネルギーが口の中で爆発を起こし、ブレイダーガーディアンは自らの技でダメージを受けた。
「ぬがあああああ!」
 一つの頭が悲鳴を上げながらも、ブレイダーガーディアンは残る二つの口から破壊光線を発射。
「ダブルバリア!」
 やすいくんとトゥンバは再び合体バリアを発生させ、皆の盾となる。三本の破壊光線は防げなくとも二本ならばこれで十分。鉄壁のバリアは、今度こそ仲間の身を完璧に守った。
「よし、反撃だ!」
 ガーディアン・ブラストが止むと、わたあめは駆け出しブレイダーガーディアンのどてっ腹にわたたきパンチをぶち込む。ビームや斬撃には強い鱗も、内部まで衝撃をぶち込む打撃に対しては防御効果もそれほど高くはないのだ。
「ダブルわた!」
 わたあめの手に持つわたが、二つに分裂。かつてわたろうの使っていた技を、わたあめも習得したのだ。
「はあああああ! わたたきラッシュ!」
 効いているとわかったわたあめは、更なる連撃を畳み掛ける。手が何本にも見えるほどの、超高速のラッシュ。わたを握った二つの拳が、鱗の装甲をものともせずブレイダーガーディアンにダメージを与えてゆく。
「わたあめ、来るぞ!」
 ブレイダーガーディアンが再び光線を吐こうとしたところで、わたあめは後ろに退避。頭上に張られたダブルバリアで光線を防ぎつつ下がった。
「どこまでも我を愚弄するか……愚かなる者どもよ」
 破壊した頭が、再生を始める。
「おいおい、もう再生はできないんじゃなかったのかよ!?」
「いや、あいつはもうマスターブレイダーじゃない。マスターブレイダーを再生させていた張本人なんだ。自分自身を再生させられるのは当然だろう」
 カモンベイビーの質問にアルソルは冷静に答えるも、その額には冷や汗が流れていた。
「祭壇を壊せばよかったマスターブレイダーと違って、再生を防ぐ術は無いぞ。どうする?」
 トゥンバが尋ねる。
「手はある。マスターブレイダーは瞬時に再生していたことから、本人の意思とは無関係に自動で再生していたと考えられる。だがブレイダーガーディアンはビームを撃ち終えてから再生が始まった。つまり奴は再生しようと思わなければ再生することができず、またある程度の集中が必要でありビームを吐く等他の行動をしながら再生することはできないと推測できる」
「凄い……流石アルソルだ」
 ここまでの攻防で相手の再生能力の性質を見極めたアルソルに、わたあめは感銘の声を漏らした。
「だったらひたすら攻撃するのみだ。相手に再生の隙を与えないようにな」
「それなら俺達も協力するぜ」
 突如、後ろから声が聞こえた。
 カラリオ、キツネ男、ロイヤルブイプル、ドッパー、そしてごつごつあめ。負傷により離脱していた仲間達が、怪我を治して助太刀に現れたのだ。
「みんな!」
「よし、これで全員集合だ! ブレイダーガーディアンを倒すぞ!」
「おう!」

 

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