第45話 バブル&クリスタル

「さあ、デスエレメンツが見事な勝利を収め盛り上がっているブレイダーバトル! 続いては中堅戦です! まずは挑戦者から……やすいくん&トゥンバ!」
 ブレイダー族達の歓声に満ちる中、相も変わらず司会者は挑戦者側の紹介を簡素に済ませる。
「あの勝ち方を恥ずかしげもなく見事な勝利と言い切るなんて……どうかしているな」
 司会者の言葉に、やすいくんは顔を顰めた。
「言わせておけばいい。俺達が試合に勝つことで、カラリオとキツネ男の名誉を取り戻すんだ」
 アウェーの空気の中、やすいくんとトゥンバは堂々とバトルの舞台に立つ。
「続いて我らがデスエレメンツ、光の如く煌びやかな戦いをする男、ライトブレイダー!」
 司会者がそう叫ぶと、ブレイダー側の入場口から頭に光を乗せた男が飛び出した。わたわ町でカラリオが戦った相手である。
「ケケーッ! ライトブレイダー参上だーっ!」
 光の剣を持って回転し、自分を光らせるパフォーマンスをしながらの入場。観客のブレイダー族達は大盛り上がり。
「ライトブレイダー! 今日も華麗に決めてくれー!」
 観客の応援に答えるように、ライトブレイダーは頭の光を輝かせる。
「そして、闇の如く残虐な戦いをする男、ダークブレイダー!」
 続けて現れたのは、頭に闇を乗せた男。わたわ町でキツネ男が戦った相手である。こちらは特にパフォーマンスは無く、力強い足取りで入場。やはり観客は大いに盛り上がる。
「ダークブレイダー! 残虐ファイト期待してるぜー!」
「闇使いか……あいつの闇と俺の肌、どちらの方が黒いか勝負したいところだな」
 何故か黒さに拘るトゥンバは、そんなことを呟く。
「さあ、今回も前回同様見事な勝利に期待だ! それでは……試合開始!」
 開始の宣言と同時に、ライトブレイダーが姿を消す。
「光速の剣を喰らえっ!」
 閃光の如き切り付けが、やすいくんに襲い掛かる。判断の遅れたやすいくんは、その一撃を右肩に喰らう。
 先制攻撃を許してしまうも、やすいくんは動じない。冷静にその状況を受け止め、ライトブレイダーの姿を視認する。そしてすかさず剣で反撃に出た。だがライトブレイダーはまたしても光のような速さで姿を消し、その攻撃をかわす。
「くっ、速いな」
 やすいくんはライトブレイダーのスピードに驚きつつも、どこから飛んでくるかわからない次の攻撃に身構える。
「俺は光のブレイダー、俺のスピードは光速だ!」
 後ろに回り込んだライトブレイダーが、再び切り付ける。やすいくんは慌ててそちらに盾を向けるが、間に合わず。背中を切られ、前のめりに倒れる。間一髪、右足で踏み込んで転倒を避けるも、再びライトブレイダーを見失った。
(速すぎて姿が見えない……奴は本当に光速だというのか!? 光の速度で動く相手に攻撃を当てるなど……できない!)
 やすいくんが苦戦を強いられる中、トゥンバもまたダークブレイダーに翻弄されていた。
「喰らえーっ!」
 ダークブレイダーは離れた位置からそう叫ぶと、闇の剣を地面に突き刺す。まるで見当違いの場所を攻撃する相手を不審に思ったトゥンバは、機械の眼でその様子をじっと見る。
 剣を突き刺した地面から、トゥンバに向けてダークブレイダーの影が伸びた。
「影だと!?」
 トゥンバは向かってくる影を横っ飛びで避けるが、直後影から真っ黒な長い棘が突き出しトゥンバを襲った。トゥンバは手刀でそれをいなし、更に大きく跳んで影から離れる。
(こいつ……影を武器にできるのか!)
 ダークブレイダーの影はなおもトゥンバを追い、不規則に飛び出す棘でじわじわと攻め立てる。影と棘の二つを同時に避けねばならないのは、回避の得意なトゥンバでも厳しいところがあった。かわすことに必死で、ダークブレイダーに近づくことができない。
「だったらこれで……バブル光線!」
 口から吐く泡で遠距離攻撃。だが影から出る棘が素早く泡を割っていき、ダークブレイダーまでは届かない。そしてその攻撃の際にできた隙を突き、遂にダークブレイダーの影がトゥンバの影に触れてしまったのである。
「当たったぜ!」
 あくまで影と影が接触しただけ。トゥンバ自身の肉体には何も当たっていない。だがトゥンバは、不思議と足に違和感を覚えた。下を見ると、ダークブレイダーの影が自分の足に絡み付いている。
「こ、これはっ!?」
「これでてめえの動きは封じたぜ。さあ、内蔵をグチャグチャにしてやる!」
 ダークブレイダーの合図と共に、無数の棘が足元の影から一斉に飛び出した。
「そうはさせん! バブルッ、バリアーッ!」
 トゥンバは自身の周りに粘度の高い泡を丸く張る。無数の棘は泡に阻まれる。その隙にトゥンバは泡の液を足と絡みつく影の間に染み込ませ、そのぬめりを使ってジャンプし影から脱出した。
「お前の影の動き……見切った!」
 着地と同時に、トゥンバは激しい動きで踊り出す。
「な……こいつ!?」
 突然の行動に動揺するダークブレイダーだったが、攻撃の手は止めない。トゥンバは華麗なステップを踏み、流れるように棘を避ける。
「トゥトゥトゥトゥンバッ! トゥトゥトゥトゥンバッ!」
「こいつ、舐めた真似を!」
 ダークブレイダーが棘を出す速度を速めると、トゥンバも同調するように動きが速くなる。その様子は、さながら棘と一緒に踊っているかのよう。あまりに芸術的なその姿に、それまでブーイングを送っていた観客達は思わず見入って言葉が出なくなってしまった。そして、ダークブレイダーでさえも。
 ダークブレイダーが気付いた頃、トゥンバは踊りながらの自然な動きでダークブレイダーに接近していた。
「しまった!」
「トーゥン、パーンチ!」
 ダンスからそのまま繋がった動きで、トゥンバの鉄拳がダークブレイダーの顔面を抉る。機械の動力によって強化されたその拳は、ダークブレイダーがかつて味わったことがない程の威力であった。
「ガハァッ! な、何だこいつは……何故こんなにも強い!」
 鼻面がへこみ仰向けに倒れるダークブレイダーは、トゥンバの強さに焦りを覚えた。
「おいライトブレイダー! 遊んでねえでこっちを助けろ!」
 そう言ってライトブレイダーの方を見るが……何と先程までやすいくんを追い詰めていたはずのライトブレイダーが逆に追い詰められていた。
「おい! どうなっているライトブレイダー!」
「そ、それが……」
 時は少し遡る。トゥンバがバブルバリアを使った時のことである。
 光速となり姿を消しては再び現れ一閃を繰り出す戦術に苦しめられていたやすいくんは、ふとトゥンバの戦いを見た。次の瞬間、やすいくんは振り返ると同時に剣を逆手に持ち替え、背後の一点を突く。
「グゲッ!」
 右脇腹を突かれ、ライトブレイダーは情けない悲鳴を上げた。
「ど、どういうことだ……偶然か……?」
 ライトブレイダーは動揺しつつ慌てて姿を消すが、やすいくんは一瞬トゥンバの方に目をやった後、再びライトブレイダーの居場所を的確に突く。
「グヘッ、ど、どうして俺の居場所がわかるんだ!」
 やすいくんは答えない。何度姿を消しても、やすいくんは確実に居場所を当ててくる。その理由がわからないライトブレイダーがやすいくんを観察すると、いつも攻撃の前にトゥンバの方を見ていることがわかった。
「ま、まさか……」
 バブルバリアに包まれるトゥンバ。そしてそのバリアに映る、やすいくんとライトブレイダー。
「気付いたようだな。お前の『光速』の絡繰は、光の屈折。お前は自分の周りの光を屈折させて姿を見えなくしていたんだ。だが泡の表面の丸みが屈折された光を反射するため、トゥンバの泡にはお前の姿が映っていた……光速なんてのは、単なるハッタリだ!」
「ゲェーッ!」
 手の内が完全にばれ、ライトブレイダーは悲鳴を上げた。
「な、ならばこうするまでだ!」
 ライトブレイダーはトゥンバの泡に映らない死角へと移動する。再びライトブレイダーを見失ったやすいくんだが、その態度は冷静。
「お前がそうするなら、俺はこうするまで」
 やすいくんは水晶術によってバレーボール大の水晶を作り出すと、それを剣で突いて削り始めた。出来上がったのは、美しい水晶球。
「この水晶球はトゥンバの泡と同じ球形をしている。つまりお前の姿は、これに映っているというわけだ」
 水晶球に映るライトブレイダーの姿を視認したやすいくんは、新たにテニスボール大の水晶を作り出すとそれをテニスのサーブのように剣で叩いて打ち出す。
「クリスタルショット!」
 正確なコントロールで水晶はライトブレイダーを射抜く。クリスタルショットを撃つと同時にやすいくんはライトブレイダーに向かって駆け出し接近、剣で追撃を与える。
「ゲェッ!」
 追撃を受けたライトブレイダーは再び姿を消すが、水晶球により容易く居場所を見破られる。
「もうお前のそれは通じない。諦めろ」
 同刻、トゥンバもダークブレイダーの影の動きを見切り、ダンシング殺法で追い詰めていた。最早勝負は決した。やすいくんとトゥンバに、負ける要素は無い。だが二人は、まだ勝ったとは思っていなかった。次鋒戦でカラーコンタクトを襲撃したもも男の罠が、まだ残っているのだ。
「まったくしょうがない奴らだもも。今回も俺に任せるもも。ももだ食い!」
 ブレイダー側のピンチに、もも男が動いた。やすいくんとトゥンバは、目と目を見合わせる。カラーコンタクトを罠に嵌めたもも男の介入も、わかっている以上は予定調和である。
 影を使っての攻撃から剣での近接攻撃に切り替えたダークブレイダーを、トゥンバはダンシング殺法で翻弄しつつやすいくんとライトブレイダーの方へと誘導する。
 やすいくんとトゥンバは、あえてもも男に狙いを付け易いよう近くに集まった。それと同時に、ライトブレイダーとダークブレイダーも一箇所に集める。
「しめしめ、奴ら丁度よく二人同じ場所にいるもも。今こそまさに狙い時! 喰らってくたばれ必殺ももストリーム!」
 まんまと乗せられたもも男は、そうとも知らずこの機会を逃さんとばかりに行動に出る。黄金に輝くもも男の口から、強烈なエネルギーに満ちた黄金色の光線が放たれた。
「今だ! クリスタルバリア!」
 やすいくんはもも男に盾を向け、光り輝く水晶のバリアを展開。更にバリアの角度を巧みに操作し、跳ね返る光線が二方向に分散するようにした。狙い通り、一方はもも男に、もう一方はライトブレイダーとダークブレイダーに向かって飛んでいく。
「もげーっ!」
「「ぐえーっ!」」
 その場にいる誰もがあっと驚く中、光線がヒットした二箇所で同時に爆発。三人の敵を一網打尽にした。
 コロシアムはしーんと静まり返る。ライトブレイダー、ダークブレイダー、そしてもも男。三人とも黒コゲになって気を失っている。
「しょ、勝者、やすいくん&トゥンバ……」
 司会者が小さな声で、ぼそっと言った。
「やったー!」
 入場口から観戦するわたあめ達が、歓喜の声を上げる。やすいくんとトゥンバはハイタッチ。観客のブレイダー族達は、あまりのことに言葉を失う。
「なんということでしょう……我らのデスエレメンツがまたしても負けてしまいました……今回の挑戦者は、ただものではありません!」
 静まり返るコロシアムに、司会者の声が響き渡った。

 

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