第44話 もも男の罠

「二人ともお疲れ!」
 戻ってきたわたあめとカモンベイビーは、仲間達に温かく迎えられた。
「なんとか勝てたよ」
「まあ、この俺にかかればこんなもんだぜ」
 謙遜するわたあめと鼻高々なカモンベイビー。
「奴ら、やはりわたわ町で戦った時より強くなっていたな」
 やすいくんが言う。わたあめは頷いた。
「うん。ブレイダーバトルにそんな秘密が隠されてたなんてびっくりだよ。カラリオとキツネ男も気をつけて」
「ああ。舐めてかかったりはしねえさ」
「でもあんまりビビってちゃ勝てないコン。気楽に行くコン」
「そうだな。タッグバトルはカラーコンタクトの本領。俺達の実力を、ブレイダー族の連中に見せてやろうぜ!」
 カラリオとキツネ男はバッチリと気合を入れ、力強く仲間達に背を向ける。

「先鋒戦ではデスエレメンツが敗北するというまさかの事態が起こりましたが、これより次鋒戦を行います。まずは挑戦者、カラリオ&キツネ男ー!」
 入場前から大地を揺るがすかのようなブーイングが巻き起こる。だが次の瞬間、鼓膜を破るほどの大声がそれを掻き消した。
「カッラーリオオオオオオオッ!」
 手にはマイク。二枚のマントを翼のように羽ばたかせ、カラリオは飛翔しながらの入場。地味な入場しかできないと嘆いていたカモンベイビーを嘲笑うかの如く、ド派手にアクロバット飛行を見せる。
「俺らのコンビ名はカラーコンタクトだ。よーく覚えとけよ蛮族ども!」
 カラリオが着地すると、その隣にキツネ男がすっと現れた。
「俺も忘れてもらっちゃ困るコン」
「あの野郎! 俺より目立ちやがって!」
 案の定カモンベイビーはキレた。
「挑戦者の分際で無駄にパフォーマンスをしてウザいことこの上ありませんが、そんなことより我らがデスエレメンツの紹介です!」
 司会者は挑戦者に対する悪意たっぷりでそんなことを言うが、カラリオとキツネ男は動じない。
「まずはブレイダー族一空中戦を得意とする疾風の剣士、エアロブレイダー!」
「俺がわたわ町で戦った奴だ!」
 カモンベイビーが反応する。
 現れたのは頭に竜巻を乗せ、風の剣を手にした男。
「そして、ブレイダー族一の鉄壁の守りを持つ大地の剣士、ガイアブレイダー!」


 続いて現れたのは、ブレイダーの里の門番を勤めていた男。頭には丸い岩を乗せており、岩の剣を手にしている。
「二人目はあの門番か。わたわ町に来てなかった奴だから実力は未知数だな」
「どんな守りだろうと、俺達のコンビネーションで崩してやるコン」
「ケケッ、お前らコンビネーションを売りにしてるんだって?」
 キツネ男がコンビネーションと言ったのを聞いて、エアロブレイダーが反応した。
「言っとくが個人プレー偏重のファイアブレイダーやアイスブレイダーと一緒にしてもらっちゃ困るぜ。俺達はコンビネーションだって鍛えてるんだ。先鋒戦のような付け焼刃のコンビネーションじゃ崩せねえぜ」
「エアロブレイダー、喋り過ぎだ」
 カラリオとキツネ男を煽るエアロブレイダーを、ガイアブレイダーが静止する。
「さてさて、このコンビネーション対決を制するのはどちらか! 今度こそデスエレメンツに見事な勝利を見せてもらいたい……試合開始!」
 司会者がそう言った矢先、エアロブレイダーは風の剣を地面に向けた。強い竜巻が起こり、体が空中に浮き上がる。次の瞬間、ガイアブレイダーは地面に岩の剣を突き刺した。
 突如、地面から身の丈ほどもある岩の棘が突き出し、カラリオとキツネ男を襲った。カラリオは咄嗟の判断でキツネ男を抱えて飛び上がる。
「危ねえっ!」
 だがそこに上空から、エアロブレイダーが風の剣で襲い掛かる。
「俺に任せるコン!」
 キツネ男はコンマーを振りかぶり、エアロブレイダーと空中で鍔迫り合いに持ち込んだ。
「カラブリキーック!」
 キツネ男がエアロブレイダーの注意を引きつける中、カラリオは旋回して後ろに回り込みハイキックを打ち込む。頭を蹴られバランスを崩すエアロブレイダーだったが、下に風を送り更に高く上昇した。カラリオはキツネ男にアイコンタクトを送る。キツネ男はカラリオの体を足場にして飛び降り、地上で待ち構えるガイアブレイダーにコンマーハリケーンで特攻する。
「喰らえコンマーハリケーン!」
 だが巨大な岩の壁がガイアブレイダーの前にせり出し、キツネ男はそれに叩きつけられた。
「コングエッ!」
 悲鳴を上げるキツネ男。更にそこにガイアブレイダーが岩の剣を叩きつける。自分で出した岩の壁を粉砕し、キツネ男を吹き飛ばすと同時に岩の破片で攻撃する。
「キツネ男!」
 カラリオがキツネ男を心配してよそ見をした瞬間を、エアロブレイダーは見逃さない。強烈な風を叩きつけられ、カラリオはガイアブレイダーのところへと飛ばされる。
「ブレイダーコンビネーション・パート1!」
 岩の剣をバットのように構えたガイアブレイダーが、カラリオ目掛けてフルスイング。カラリオは両腕と二枚のマントでガードするも、強烈な一撃に容易く吹き飛ばされる。そしてその先にいたキツネ男に覆い被さるようにぶつかった。
「ぐ……いてて……大丈夫かキツネ男」
「ああ、こんなことで倒れるほどヤワじゃないコン」
 カラリオとキツネ男は大きなダメージを負ったが、なんとか起き上がる。
「ああ、そうだな。この一年、俺達がどれだけ特訓したか……見せてやらなきゃならねえんだからな」
 二人は思い出す。今から一年程前、破壊部隊との戦いで悔しい思いをしたことを。
 あれから二人は一心不乱に猛特訓を重ねた。中でもコンビネーションには取り分け磨きをかけた。二人一組での戦いならば、トゥンバやごつごつあめ、やすいくんといった町内最強クラスの面々にも劣らぬ強さになれると自負していた。
「行くぜ……俺達はわたわ町最強のコンビ、カラーコンタクトだ!」
 カラリオとキツネ男は気合を入れ直し、再び敵へと向かう。
「ブレイダーコンビネーション・パート2!」
 迎え撃つエアロブレイダーとガイアブレイダーは、次なるコンビネーション攻撃を繰り出した。地上のガイアブレイダーが操る砂を空中のエアロブレイダーが風で巻き上げ、砂嵐を起こす。
「砂嵐が何だってんだ! 喰らえ必殺・カラリオリサイタル! カラーリオーッ!」
 マイクを通したカラリオの大声が、コロシアム全体に木霊する。大声によって砂嵐は掻き消され、無数の砂となって崩れ落ちた。
「どうだ! 砂は音に弱いんだ!」
 凄まじくうるさい歌声を聴かされて、観客のブレイダー族は阿鼻叫喚。
「な、何て酷い攻撃だ……」
 マスターブレイダーの横に立つ葉っぱのブレイダーは、耳を押さえて顔をしかめた。
「……リーフブレイダー」
「はっ」
 マスターブレイダーに名前を呼ばれ、葉っぱのブレイダーことリーフブレイダーは姿勢を正す。
 そしてマスターブレイダーから一つの指示を受け、コロシアムを見下ろす高台から姿を消した。
 エアロブレイダーとガイアブレイダが耳を押さえて怯む中、キツネ男はその隙を突いて接近する。耳はピッタリと折り畳まれ、カラリオの歌が聞こえないようになっている。
 キツネ男はガイアブレイダーの頭目掛けてコンマーを振り下ろした。ゴーンと鈍い音が鳴り、キツネ男の身体に衝撃が走る。
「こ、これはっ……」
「ケケケ、驚いたか! ガイアブレイダーの頭は石頭なんだぜ!」
 無口なガイアブレイダーに代わって、エアロブレイダーが自慢げに言う。
 だがキツネ男は一歩引いた後、間髪を入れず今度は顎を目掛けて振り上げた。強烈な一撃を受けて、ガイアブレイダーは空中へと打ち上げられる。
 それと同時にカラリオはエアロブレイダーに飛びつき、両手でがっしり掴むと地上に向かって投げ飛ばした。直後、飛んできたガイアブレイダーをキャッチ。
 カラリオに捕まえられて空中にいるガイアブレイダーと、地上に叩き落されたエアロブレイダー。カラーコンタクトのコンビネーション攻撃によって、二人は戦場を入れ替えられた形になる。
 カラリオはガイアブレイダーを抱えたままぐるりと体を上下反転させる。続いてキツネ男にアイコンタクトを送り、照準を合わせた。
「お前の石頭、逆に利用させてもらうぜ! カラリ落としー!」
 真っ逆さまでガイアブレイダーと共に落下するカラリオ。その落下地点に向けて、キツネ男はコンマーでエアロブレイダーを弾き飛ばす。
「喰らってたまるかーっ!」
 エアロブレイダーは剣から風を起こして自分の飛んでいく軌道をずらす。ガイアブレイダーの頭はエアロブレイダーには当たらず。カラリオは仕方なく地面に叩きつけるが、この石頭にはまるで効いている様子が無い。
「くそっ、外したか!」
 着地際に隙を見せたカラリオ。そこに剣を構えたエアロブレイダーが迫る。
「コンマー投げーっ!」
 キツネ男はコンマーをブーメランのように回転させながら投げつけた。カラリオはガイアブレイダーから手を放し、ばっと振り返るとマントを大きく羽ばたかせ宙に浮き上がった。
「カラーリオーッ!」
 続けてマイクを取り出し、空中からコンマー目掛けて強烈な歌声を浴びせた。
 コンマーの金属パーツが、カラリオの歌に共振する。爆音は更に増幅され、破壊音波へと姿を変える。
「新合体技・カラーコンタクトリサイタル!」
 カラリオは空中でかっこよくポーズを決めて技名を言った。キツネ男は耳を折り畳んだ上で破壊音波を受けない場所に退避している。
 ガイアブレイダーは岩の剣を地面に突き刺し、自身とエアロブレイダーの周囲に無数の岩の壁を出現させた。だが破壊音波によってそれは一瞬によって砕け散り、砂へと帰す。
「ぐわあーっ!」
 破壊音波の直撃を喰らった二人のブレイダーは吹き飛ばされる。
「いいぞー! カラーコンタクトー!」
 カモンベイビーが歓声を上げる。更にコンビネーションに磨きをかけたカラーコンタクト。その実力はデスエレメンツにも決して劣ってはいない。
 だがわたあめは、一つの異変に気がついた。
 観客席の一角。そこにいるのはもも男と……先程まで高台でマスターブレイダーと共に観戦していたリーフブレイダーである。二人は何かを話している。
 しかし絶好調で戦闘に集中するカラリオとキツネ男は、そんなことに気付く由も無かった。
「よっしゃー、カラーコンマーハリケーンでとどめだ!」
 カラーコンタクトリサイタルによって大きなダメージを与え、二人のブレイダーは怯ませた。今がチャンスとばかりに、カラリオとキツネ男はとどめの合体技へと移行する。
 カラリオがキツネ男を抱えて飛び立ち、コンマーを構えたキツネ男を投げつけようとする。
 その時、観客席の一角が黄金の輝きを放ち始めた。それは言うまでもなくもも男。大量の桃を下品に食い散らかし、ももだ食いによってパワーアップしたのだ。
「カラリオ! キツネ男! 危なーい!」
 わたあめが叫ぶ。だが、時は既に遅かった。
「ももストリーム!」
 もも男の口から、黄金色の光線が放たれる。カラーコンマーハリケーンを出そうと空中で無防備な状態になったカラリオとキツネ男は驚いたのも束の間、ももストリームの直撃を喰らった。
 誰もが愕然とする衝撃の瞬間。カラリオとキツネ男は爆風によって地面へと投げ出される。
「今だ!」
 エアロブレイダーとガイアブレイダーはここぞをばかりに突撃し、倒れている二人に追い討ちの一太刀を喰らわせた。
「ガハァ!」
 カラリオは血を吐いて気を失う。キツネ男はなんとか意識を保っていたが、戦闘不能になったことは明白であった。
「勝者、エアロブレイダー&ガイアブレイダー!」
 司会者が嬉々と勝利者を宣言する。
「カラリオ! キツネ男!」
 わたあめ達は敗れた二人に駆け寄った。
「ドッパー先生、早く二人に治療を!」
「ああ!」
 ドッパーとアルソルに抱えられて、二人は控え室に運ばれる。
「す、すまないコン……あれだけ特訓したのに……勝てなかった……」
 悔し涙を流すキツネ男。わたあめはその思いを受け止め、しっかりと手を握った。
「何も謝ることなんてないよ! 本当なら君達は勝ってたんだ!」
「あ、ありがとうコン……」
 わたあめに手を握られ、安心したのかキツネ男はふっと意識を失った。
「てめえら卑怯だぞーっ! あんな方法で勝って嬉しいのかーっ!」
「あれはゾウラ族が勝手にやったこと。我々ブレイダー族は一切関与していない。言わば事故のようなものだ」
 外ではごつごつあめがマスターブレイダーに抗議しているが、まるで聞いてもらえない。
「どう見てもブレイダー族の指示でもも男は攻撃してるのに……白々しいな」
 やすいくんもブレイダー族の卑劣さに立腹する。
「やすいくん、トゥンバ、次は君達の番だろう? どうするんだい、あいつら負けそうになったらまた同じことしてくるよ」
 ロイヤルブイプルが訊ねる。
「何ならお前らが負けそうになったら、俺がカモンブラスターで敵の選手を狙撃してやるぜ!」
 やすいくんとトゥンバが答える前に、カモンベイビーが割り込んだ。
「それは駄目だ! 奴らはゾウラ族がやったという名目で外野からの攻撃を不問にしたに過ぎない。それをこちら側の選手であるお前がやれば一発で反則にされるぞ!」
「そ、そうか……」
「それに、そんなことをしてあいつらと同レベルに堕ちたくはないだろう。俺達は俺達の実力だけで勝つ。大丈夫だ、俺に考えがある」
「あの卑怯者どもに一泡吹かせてくるぜ、トゥトゥトゥトゥンバ!」
 一勝一敗で迎えた中堅戦。やすいくんとトゥンバは強い意思を胸に、控え室を発った。 

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