第43話 ブレイダーバトル開始!

「ブレイダーバトル先鋒戦! まずは挑戦者の紹介です!」
 司会者の言葉と共に、わたあめとカモンベイビーは入場する。
「わたわ町から来た少年……わたあめとカモンベイビーだー!」
 二人は胸を張って堂々とした入場を見せる。だが、観客達から浴びせられるのは怒涛のブーイング。
「ムカつくぜ……あいつらこの俺にブーイングなんか飛ばしやがって!」
「仕方ないよ、ここは僕達にとって完全にアウェーなんだから」
 憤慨するカモンベイビーを、わたあめがなだめた。
 観客席にいるのは、そのほぼ全てがブレイダー族である。唯一違うのが、ゾウラ族のもも男であった。
「ブーブー! わたわ町民死ねももーっ!」
 もも男はブレイダー族に混ざり、にやついた顔で野次を飛ばす。
「ったくよぉ、ここに跳び箱かバンジーの紐でもありゃ、ド派手な入場でアウェーだろうとお構い無しに観客を沸かせられたってのに。こんな地味な入場じゃ俺の魅力が半減だぜ」
 カモンベイビーの入場に対する謎の拘りに、わたあめは苦笑いするしかなかった。試合を観戦するため入場口に来ていたアルソル達も呆れかえる。
「カモンベイビーの奴、こんな時に何考えてるんだ」
「さあ続いてはお待ちかね、デスエレメンツのお二人!」
 司会者がそう言うと、もう一方の入場口から二人の男が姿を現す。
「その熱く激しい攻撃はあらゆるものを燃やし尽くす! 炎の剣士、ファイヤーブレイダー!」
 一人はわたわ町でわたあめと戦ったファイヤーブレイダー。燃える炎を頭に携え、不敵な笑みを浮かべている。
「冷静な判断力でクールに戦う氷の剣士、アイスブレイダー!」
 そしてもう一人はやすいくんと戦ったアイスブレイダーである。頭に氷柱を携え、冷たい目でわたあめ達を見ている。
「炎と氷、熱さと冷たさのスーパータッグ! 今回もその圧倒的な強さ、見せてくれー!」
 わたあめ達が出てきた時とは打って変わって、爆音のような大歓声が闘技場に響き渡った。
「人気者じゃねえかあいつら」
「僕らにとっては敵だけど、ブレイダー族にとっては英雄だからね」
「まあいいさ。この試合が終わる頃には、あの歓声をカモンベイビーコールに変えてやるぜ」
 カモンベイビーは、こちらも不敵な笑みを返した。
「あっちの氷の奴は俺が戦ったわけじゃないが、隣でやすいくんが戦ったのを見てる。俺が戦った風使いの奴もそうだが、はっきし言ってあいつらザコだぜ。破壊部隊との戦いを乗り越えた俺達の敵じゃねえ」
「ファイヤーブレイダーは僕が戦った相手だけど……確かにわたわ町で戦った時は大して強くなかった。でも何だろう、あの余裕の態度は」
「どうしたわたあめ、弱っちいんならそれでいいだろ」
「わたわ町で戦った時そのままなら簡単に勝てることは間違いないよ。でも、彼らもそのことはわかってるはずなのに、あんな負ける気がしないかのような態度。僕の杞憂だったらいいけど……あいつら、何か隠してるような気がする」
「どうでもいいぜ、んなこと。さっさと始めようぜ」
 相手の態度が気になって仕方が無いわたあめに対し、まるで気にすることなく臨戦態勢に入っているカモンベイビー。わたあめも、カモンベイビーに言われて構える。
「それでは……試合開始!」
 司会者のその言葉と同時に、カモンベイビーはカモンブラスターを抜き発砲。だが二人のブレイダーは、飛んできたビームを駆け出すと同時にかわした。
「あいつら速いぞ! 俺と戦った時はあんな動き見せなかった!」
 やすいくんは自分が戦った時と比較して、敵のスピードに驚く。
 ファイヤーブレイダーは一気に間合いを詰め、わたあめに切りかかる。
「ふんわりガード!」
 膨らませたわたを身代わりに、わたあめは体勢を低くして避ける。わたは燃えて無くなるが、すぐさまわた再生で元に戻す。すかさず、下から突き上げるように拳を出した。
「わたたきパンチ!」
 だがファイヤーブレイダーは剣から炎の壁を作り出し、わたたきパンチを容易く防いだ。
「一度見た攻撃を防げないとでも思ったか!」
 ファイヤーブレイダーは剣を激しく振り回し、わたあめに襲い掛かる。空を切る度、火の粉が宙に舞った。
 わたあめは防戦一方である。下手な防御はわたを失うことに繋がり、目で見てかわすしかない。
 カモンベイビーの方も、アイスブレイダーに苦戦を強いられていた。
「ふうかぜマント!」
 マントから起こす風は、アイスブレイダーが剣から放つ吹雪に打ち負けて掻き消される。
「喰らいやがれカモンブラスター!」
 カモンブラスターを取り出し引き金に指を掛けるも、その瞬間右手を剣で突かれカモンブラスターが手を離れる。
「それならふうかぜトルネイ……」
 マントの端を掴んだ時、カモンベイビーは違和感に気付いた。指先に伝わる冷たい感触。王家の象徴たる真っ赤なマントは、凍り付いて固まっていた。
「これじゃあ技を出せねえ!」
 カモンブラスターに続いてマント技まで封じられ、絶体絶命のピンチ。
「ならこれでどうだ! ドラクチャキーック!」
 唯一残った必殺技であるドラクチャキックに最後の希望を託し、カモンベイビーは叫ぶ。だがその両足は、アイスブレイダーの作り出した堅い氷の壁によって阻まれた。足に伝わる衝撃に、カモンベイビーは悶える。
 友の危機を察したわたあめは、一旦バックステップでファイヤーブレイダーから距離をとった後、向かってきた相手に渾身のわたたキックを打ち込む。
 その一撃は頬にヒット。その隙にわたあめはカモンブラスターを拾い、アイスブレイダーに向けて引き金を引く。だが、カチカチという引き金の音が虚しく響くだけで光線は出なかった。
「僕には使えない!?」
 カモンブラスターはカモンベイビー専用の武器。自分には使えないことがわかったわたあめは、咄嗟に判断を切り替えカモンブラスターをカモンベイビーに投げる。
「ナイスだわたあめ!」
 それを受け取ったカモンベイビーは、氷の壁に向けて至近距離で撃つ。光線は氷の壁を貫き、後ろのアイスブレイダーへと注がれる。眩い光が、闘技場を包み込んだ。
「やったか!?」
 カラリオが叫ぶ。
 砂煙が晴れ、アイスブレイダーが姿を現す。その身体は無傷。
「馬鹿な! 確かに奴を撃ち抜いたはずだ!」
「フッ……お前が攻撃したのは俺を模った氷の像だ。その武器の威力が凄いことは最初に見ているからな。一瞬で像を作り出し、俺本体は安全な場所に避難したというわけだ」
 ご丁寧に解説してくれるアイスブレイダー。よく見れば、彼の立っている場所はカモンブラスターの光線の軌道から大きく外れている。
「流石冷静な判断力を持つというだけのことはあるな。あの一瞬でそれだけの対応ができるとは。だが俺と戦った時にはあんな能力は使ってこなかった。やはりわたわ町では本気を出していなかったのか……?」
 やすいくんはアイスブレイダーの実力に感心するが、それと同時に以前戦った時とはまるで違う強さに疑問符を浮かべていた。
 わたあめとカモンベイビーは相手の動きを警戒して、背中合わせに立ち身構える。
「強いよこいつら。僕達が思っていた以上に」
「わたわ町で戦った時とは別人みてーじゃねえか! ザコのフリしてやがったのかよ!」
 予想外に苦戦を強いられ、カモンベイビーは焦る。そんな様子を、二人のブレイダーはニヤニヤと見ていた。
「いいことを教えてやろうか? 俺達デスエレメンツは、このブレイダーの里にいる限り、ブレイダーの神の加護を受けることができる。それによって、俺達の戦闘力は外にいる時の倍になるのさ」
 ファイヤーブレイダーは胸を張り、わたあめとカモンベイビーを見下すように言った。
「戦闘力が……倍だと!?」
「なるほど……ブレイダーバトルに挑んだ者が一人も帰ってこなかったってのはそういうことだったのか!」
 里の外と中では戦闘力が変わるデスエレメンツ。他所の部族を襲い人質を攫う際にはあえて弱いと思わせておき、いざ里にやってきた挑戦者を倍になった戦闘力で迎え撃つ。それがブレイダーバトルのからくりであった。
「で、どうするんだよ! このままじゃ勝てねえぞ!」
「こうなったら……コンビネーションで戦うしかないよ」
「コンビネーション!?」
「個々の実力では勝てなくても、二人で力を合わせればなんとかなると思うんだ」
「……よくわかんねーけど、とにかく今はそうするしかなさそうだな。で、どうすりゃいいんだ」
「僕に作戦がある」
 わたあめはそう言うと、カモンベイビーに作戦を耳打ちする。
「わかった。やってみるぜ」
 カモンベイビーは背中合わせを解いて、一人ファイヤーブレイダーに突撃する。
「何をやらかす気か知らねえが、俺の敵じゃあねえぜ!」
 ファイヤーブレイダーはカウンターを決めようと炎の剣を肩の上に構える。
 剣が振りかざされた瞬間、カモンベイビーは足を止めファイヤーブレイダーに背を向けた。その時炎の剣が放つ熱が、凍りついたマントを解かした。
「これで技が使えるぜ! ふうかぜマント!」
 体を回転させ、マントから風を起こす。更に翻したマントの裏側からわたあめの投げたわたが不意に姿を現した。ふうかぜマントの起こす風によって加速するわたが、ファイヤーブレイダーに防御する隙を与えない。
 顔面にわたを喰らったファイヤーブレイダーは、後ろに吹っ飛ばされて頭から一回転。
「ちっ、役立たずめ!」
 アイスブレイダーは相方の心配をすることすらなくそう吐き捨て、周囲に冷気を纏わせながら敵の次の動きに備えた。
 だがそんな冷静なアイスブレイダーとは裏腹に、ファイヤーブレイダーは頭の炎をより熱く燃やしながら激昂する。
「ぐっ……やりやがったな!」
 炎の剣をしっちゃかめっちゃかに振り回し、カモンベイビーを焼き殺さんと暴れた。
「死ねぇー!」
 大きく燃え上がる火柱が、カモンベイビーめがけて振り下ろされる。
「今だ! ふうかぜトルネイド!」
 カモンベイビーはその瞬間にマントを力強く翻し、竜巻を起こした。ファイヤーブレイダーの炎を巻き込んだ炎の竜巻は、アイスブレイダーの方へと向かっていく。
 わたあめを攻撃しようと大技に向けて冷気を溜めていたアイスブレイダーだったが、迫り来る炎の竜巻にその冷気を全て消し飛ばされた。本人は炎の竜巻が直撃するのを避けるも、そこに待ち構えていたわたあめが渾身のわたたきパンチを打ち込む。
 アイスブレイダーの吹っ飛んだ先にいるのは、暴れている真っ只中のファイヤーブレイダー。アイスブレイダーは咄嗟に氷の壁を作り出し炎の剣から身を守ろうとするも、ファイヤーブレイダーの猛攻によって氷の壁は一瞬にして溶かされる。そして二人の体は衝突した。
「てめえ……何ぶつかってきてんだ役立たず!」
「周りを見ずに剣を振り回していたお前が悪い!」
 倒れたまま口喧嘩を始める二人。その様子はあまりにも滑稽であった。
「やっぱり思ったとおり、あいつら個々は強いけどコンビネーションはダメダメだよ」
「これなら勝てるぜ! よし、俺もいい作戦を思いついたからやらせてくれ!」
 カモンベイビーはわたあめに耳打ちし単独で駆け出したかと思うと、喧嘩する二人の敵の前で立ち止まった。
「カーモーン!」
 一体何をやるのかと思えば、なんとまさかの変な顔。戦闘中に喧嘩を始めるブレイダー側もブレイダー側だが、この行動はあまりにも意味がわからない。予想外すぎる行動にその場の誰もがぽかんとする中、カモンベイビーは敵に背中を向けると今度はズボンとパンツを脱いで尻を出した。
「お尻ペンペ〜ン」
 ニヤケた面を見せながら掌で尻を叩き、二人の敵を挑発する。
「カモ〜ン、カモカモ〜ン」
 そして更にどこからか取り出した花束を手に、ヘンテコな踊りを踊り出す。
 挑発――、それはカモンベイビーの十八番である。挑発の腕ならわたわ町ナンバーワン。オヤジやアルソル、わたろうにだって負けないという自信がある。
「野郎……ふざけた真似を!」
 直情的なファイヤーブレイダーはあっという間にブチ切れ、カモンベイビーに猛攻をかけた。カモンベイビーは太刀筋の一つ一つを見切りつつ、隙を見てはおかしな言動で相手を挑発する。
「貴様、神聖なブレイダーバトルを侮辱しているのか!」
 冷静沈着なアイスブレイダーも遂には怒り、カモンベイビーに突撃しだした。
 攻撃してくる敵が二人に増え、カモンベイビーは避けるのが苦しくなる。
(まだかよわたあめ!)
 若干かすりながらも寸でのところでかわしつつ、カモンベイビーはわたあめに目線を送る。
「もういいよカモンベイビー!」
 わたあめは叫んだ。返事を聞いてカモンベイビーは、待ってましたと言わんばかりにふうかぜマントで風を起こす。そうして敵を吹き飛ばすと同時に後方に跳んで離脱した。
 挑発されたことでカモンベイビーに注目していたファイヤーブレイダーとアイスブレイダーは、今ここでようやくわたあめの存在を思い出した。
 わたあめの頭上には、恐竜の如く巨大に膨らんだわたが掲げられていた。
「ため投げーっ!」
 二人は回避行動に入るが、時既に遅し。わたは既に投げられた。
「こいつはおまけだ! カモンブラスター!」
 更にそこにカモンブラスターのビームが巨大わたを押してブーストをかける。最早二人のブレイダーに避ける術は無い。
 わたとビームの相乗効果による大爆発が、二人のブレイダーを巻き込んだ。二人は白目を向いて黒コゲになり、観客席まで吹き飛ばされていた。
「ファ、ファイヤーブレイダー様が……気絶してる……」
「アイスブレイダー様も……」
 近くにいた観客達は目の前で起きたことを信じられない様子だった。
「しょ、勝者……わたあめ&カモンベイビー……」
 それまでのテンションはどこへ行ったのやら、司会者も声を抑えて勝利者を宣言する。勝利が確定して、わたあめとカモンベイビーはハイタッチ。
「馬鹿な……あの二人が負けるなんて。あのガキども、一体何者だ!?」
 マスターブレイダーの横で、頭に大きな葉っぱを付けたブレイダーが目を丸くして言った。
「これはいかんな……実にいかん……」
 マスターブレイダーは、椅子に座ってふんぞり返ったままそう呟いた。

 

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