第40話 竜人族の戦士

 破壊部隊との激闘から数ヶ月。わたあめ達は、五年生に進級していた。
 かつては皆と距離を置いていたやすいくんもすっかり打ち解け、今ではわたあめ達にとってかけがえのない友人の一人となっていた。

 ある日のことだった。旅の戦士が一人、わたわ町を訪れていた。
(あれは……)
 戦士は、公園でサッカーに興じる子供達を見る。その中の一人に、見知った顔がいるのを発見した。
「わたあめ! わたあめじゃないか!」
 名前を呼ばれ、わたあめは振り返る。
「もしかして……アルソル!?」
「やっぱりわたあめだったか! 大きくなったなー!」
 二人は駆け寄り、喜んで手と手を取り合った。
「何だ、わたあめの知り合いか?」
 一緒に遊んでいたカモンベイビー達が、わたあめに駆け寄る。
「うん。僕の兄さんだよ」
「えええええっ!?」
 わたあめの衝撃的な発言に、誰もがびっくり。
 アルソルと呼ばれたその戦士は、二十歳ほどの見た目の青年だった。鱗に包まれた長い尾と大きな翼を持ち、額からは黄金の角が生えている。その姿は、とてもわたあめと血が繋がっているとは思えなかった。


「それじゃあ、この人が俺に似ているっていう……」
 やすいくんが尋ねる。
「ううん、それはアルソルじゃなくてわたろう兄さん、血の繋がった兄の方だよ。アルソルは血は繋がってないんだけど、僕やわたろう兄さんにとって兄のような存在だった人なんだ」
「俺はアルティメットソルジャー。アルソルと呼んでくれ」
 アルソルは爽やかに自己紹介する。
「紹介するよアルソル。カモンベイビーに、やすいくん、カラリオ、キツネ男、それに友人トリオ。みんな僕の友達なんだ」
 わたあめに紹介され、やすいくん達は頭を下げた。
「父さんには会ってきたの?」
「いや、これからだよ」
「じゃあ、一緒に行こうよ。旅の話とか、色々聞かせて!」
 わたあめは兄弟同然に育ったアルソルとの再会に喜び、目を輝かせていた。
「俺達もついていっていいか?」
「もちろんだよ!」

 わたあめ達は、アルソルと共にわたあめの家に向かった。
「お久しぶりです、オヤジ師匠!」
「おおアルソルか! 久しぶりじゃのー!」
 家に入ると、酒瓶を手にしたオヤジと、ちょこちょこ歩くわたぴよが出迎えた。
「相変わらず昼間から酒ですか……懲りませんね」
「別にいいじゃろ、これがわしの唯一の趣味なんじゃから。そうじゃアルソル、もうお前も飲める歳じゃろ。せっかくだから一緒にどうじゃ」
「ご遠慮しておきます。今日はわたあめ達に色々と旅の話をしてあげないといけないので」
「残念じゃのう……」
 オヤジはがっくりと肩を落としながら戻っていった。
 わたあめ達はリビングに行き、アルソルをソファに座らせる。
「それじゃあ、何から話そうか」
「そういえば、さっきオヤジさんの弟子とか言ってたな」
 カラリオが訊ねた。
「ああ。俺は九歳の時にオヤジ師匠に弟子入りしたんだ。それでわたろうやわたあめとは兄弟同然に育った。わたぴよは俺がいた頃まだ赤ん坊だったから、俺のことは覚えてないかな」
「うん、覚えてないよ」
 わたぴよが言った。
「そうかー、わたあめやわたぴよのおむつをよく替えてやってたんだぞ、俺」
「変なこと言わないでよアルソルー!」
 わたあめが怒って言う。
「オヤジ師匠の下で剣術を学んだ俺は、小学校を卒業すると同時に旅に出た。世界中を旅し、修行を重ねてきたんだ」
「へぇー、スゲェなー」
 小学生達は、アルソルの話に素直に驚く。
 その時だった。部屋の扉が開き、ごつごつあめが入ってきた。
「わたろうの兄貴が来てるって本当か!?」
「ごつごつあめ! どこで知ったの?」
「俺が呼んだんだコン。ごつごつあめが興味を持つと思ってコンな」
 疑問に思うわたあめに対し、キツネ男が携帯電話を手にしながら言った。
「紹介するよ、彼はごつごつあめ。彼も僕の仲間で、すっごく強いんだ」
「そうか君がごつごつあめ……俺はアルティメットソルジャー。わたろうの兄だ。よろしく」
 アルソルはごつごつあめに握手を求め、ごつごつあめはそれに快く応じた。
「あれ、ごつごつあめのこと知ってるの?」
「ああ、わたろうから聞いたんだ。わたろうとは、ソードマス帝国でたまたま出会ったんだよ」
「ええっ、兄さんと!?」
 ソードマス帝国とは、カモン王国の北にある大帝国である。戦士の国とも呼ばれ、毎年大規模な武闘大会が開かれることで知られている。修行したい者にとってはもってこいの国である。
「あいつも俺を真似して修行の旅に出たんだってな。随分と逞しくなっててびっくりしたよ。ソードマス帝国の武闘大会でも優勝したそうだ」
「わぁ……兄さんも頑張ってるんだ」
「ククク、流石はわたろう、俺の永遠のライバルだ。……ところでアルソルよ、わたろうから俺のことを聞いたと言ったが……わたろうは俺のことをどう言っていた?」
 ごつごつあめは、恐る恐る尋ねた。
「ああ、凄く強い奴だって言ってたよ」
「ほ、本当か!? ク、クク……わたろうが俺のことを……」
 ごつごつあめは顔を赤くし、物凄く嬉しそうな表情でニタニタ笑っていた。
「よかったなー、ごつごつあめ」
 カラリオが笑って言う。
「くっ……うるさい! ところであんた、俺と一つ手合わせしてもらえないか。わたろうの兄と来ちゃ、当然あんたの実力はわたろう以上なんだろう」
「構わないよ。俺も修行の成果をオヤジ師匠に見せたかったところだ。見たところ、この中で一番強いのは君のようだしね」
 見ただけでごつごつあめが一番強いことを当てたアルソルの眼力。それだけでやすいくん達はアルソルの強さを理解する。
「それじゃあ外でやろうか。わたあめ、すまないがオヤジ師匠を呼んできてくれ」
「うん、わかったよ」

 オヤジを連れて、わたあめ達は外に出た。
 アルソルとごつごつあめは向かい合って立つ。アルソルの得物は剣と盾だ。
「それでは……試合開始!」
 オヤジが叫んだ。
 一陣の風が吹くと共に、ごつごつあめが飛び出した。ごつごつを持った拳が唸りを上げ、アルソルに襲い掛かる。アルソルは動じることなく、左手に持った盾で迎え撃つ。
 ガリガリと音を立てながらごつごつが盾の表面を削り、火花が散る。アルソルは盾で攻撃をいなしつつ、ごつごつあめの左側に回りこむ。
「させるか!」
 右腕とクロスさせるかのように、石を持った左手でパンチを打つ。アルソルは翼を広げて羽ばたかせ、後方に跳んでかわした。続けて、剣を構えて目にも留まらぬ連続突き。ごつごつあめは両腕を広げ、必殺技の体勢に入る。
「ごつごつラッシュ!」
 アルソルの連続突きに合わせて、機関銃の如き拳の連打。突きの一つ一つを的確に潰してゆく。
「どうだ、俺のごつごつラッシュを喰らえば、その剣はただでは済むまい」
 突きとラッシュの比べ合いを終え、二人は再び距離を置く。ごつごつあめの狙いは武器破壊。剣さえ使えなくしてしまえばこっちのもんだと、ギザギザの歯をむき出しにして勝ち誇る。だが。
「な、何だと!?」
 驚いたのは、ごつごつあめの方である。アルソルの手にする剣は、ごつごつラッシュと何度も剣先でぶつかり合ったにも関わらず刃こぼれ一つしていないのだ。
「俺の一族に代々受け継がれてきたこの剣が、そう簡単に折れると思ったら大間違いだ」
「はっ! そうこなくっちゃな!」
 ごつごつあめはすぐに立ち直り、猛牛の如く突撃。拳を振る毎に空気が振るえ、突風が起こる。
「ごつごつあめ……ただでさえ凄かったパワーが、ますます強くなってやがる!」
 カラリオは、ごつごつあめの強さに感服。
 メテオ・ブラックに成すすべなく完全敗北を喫したごつごつあめは、あれから更なる特訓を重ねた。わたわ中学校に進学した彼はより体格と筋肉量が増し、ますますパワーに磨きをかけた。今のごつごつあめに、最早死角は無い。
 だが、わたあめが着目したのはごつごつあめの方ではなかった。
「でも……それを完璧に防ぎきってるアルソルはもっと凄い!」
 一発一発が必殺の一撃に匹敵するごつごつあめの鉄拳を、アルソルは盾と身のこなしで的確に防いでいる。更に、隙を突いて剣を振り反撃。自分は無傷のまま、ごつごつあめに少しずつダメージを与えてゆく。
「ちっ、小賢しい戦いしやがる。まるでわたろうみてえだぜ!」
 ごつごつあめは更に腕に気合を籠め、ひたすらパンチを打つ。
「それは褒め言葉を受け取っていいのかな」
 拳をかわすと同時に、アルソルは剣を振り下ろす。ごつごつあめはごつごつと石を重ね合わせ、それを受け止める。
「オオオオラア!」
 野太い掛け声が響く。ごつごつあめは両腕に力を籠め、血管が盛り上がる。ごつごつと石でアルソルの剣をがっちりと固定し、腕の力でへし折るつもりだ。
 だが次の瞬間、アルソルは隙だらけの鳩尾を盾で突いた。ごつごつあめは「ぐおっ」と息を漏らし、一瞬にして全身の力が抜けた。ふらふらと足をもたつかせながら、数歩下がる。アルソルの剣は、無傷である。
「強力無双のごつごつあめさんをもってしても傷一つ付けられないとは……あれは相当の名剣だな。あんな剣を代々受け継いできた一族とは一体……」
 やすいくんがアルソルの剣の頑丈さを見て疑問に思う。
「クク……流石はわたろうの兄といったところか……こうでなくちゃ面白くねえ。こうなったら俺の最大最強の奥義で、てめえのその余裕を沈めてやる」
 ごつごつあめは両腕と両脚を広げ、大の字に立つ。両脚で同時に地面を蹴り、ロケットのように跳び上がる。アルソルは、どんな攻撃が来てもいいよう盾を前面に出して身構えた。
「喰らいやがれ! ごつごつデストロイヤー!」
 空中で錐揉み回転と共に嵐のような拳の連打をするごつごつあめが、ミサイルの如く飛来する。それに対するアルソルは、左手の盾をしっかりとごつごつあめに向けたまま、右手の剣を大きく後ろに構え力を溜める。
「竜皇斬!」


 カッと目を見開き、アルソルは一気に剣を振りかぶる。空中で刃の描いた弧が、そのまま飛ぶ斬撃となってごつごつあめに襲い掛かった。
 ごつごつデストロイヤーと竜皇斬が、真正面からぶつかり合う。眩い閃光が辺りを包んだ。結果は――相打ち。互いの攻撃が無力化される。
 だが間接攻撃のアルソルと、肉弾攻撃のごつごつあめとでは受けたダメージは段違いであった。
「ぐっ……ま、まいった……」
 ごつごつあめは地面に這いつくばり、悔しそうに言う。
「勝者アルソル!」
 オヤジが叫ぶ。結局アルソルは、無傷のままごつごつあめに勝利してしまった。
 厚さ20ミリの鉄板をも粉砕するごつごつデストロイヤーは、わたわ町住人の必殺技の中でもトップクラスの破壊力。それと真正面から相打つ竜皇斬の威力は、驚愕の一言である。アルソルの圧倒的な強さ、それはまさしく究極。名は体を現すとは正にこのこと。
「凄いよアルソル! 昔のアルソルも強かったけど、ますます強くなってる!」
 わたあめはアルソルの強さに目を輝かせていた。
「流石はわたろうの兄貴だ。この強さ……やはりわたろう以上か」
「君も相当強かったよ。手合わせできたことを誇りに思う」
 起き上がったごつごつあめとアルソルは固い握手を交わした。
「ところで、一つ疑問に思ったのですが、アルソルさんの剣術はオヤジさんと似ていませんよね? オヤジさんは両手剣でアルソルさんは片手剣と盾ですし」
 ふと、やすいくんがアルソルに尋ねた。
「ああ、俺はオヤジ師匠から基礎訓練や剣士としての心得などを教わったが、剣術の流派はオヤジ流じゃない。俺が使うのは、竜人族の剣術さ」
「竜人族……?」

 一方その頃、わたわ町にはまた不穏な影が近づいていた。
「もーっもっもっも、今回の俺は一味違うもも。わたわ町の戦士達を一網打尽にする、画期的な作戦を実行してやるももーっ!」
 懲りずにやってきたもも男。だがその傍らにいる今回の助っ人は、いつものゾウラ族怪人とは少し雰囲気が違っていた。

 

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