第37話 やすいくんVSメテオ・ブラック

「怪人は二体とも倒した。田中博士、次はどうしたらいい」
 た・カー君&クリードとの戦闘を終えたトゥンバは、腕に取り付けられた通信機で田中研究所を連絡をとっていた。
「ああ、わかった。今すぐ向かう。わたあめ君、どうやらこの近くで瓦礫の下に閉じ込められている人がいるらしい。俺はその救助に行ってくる」
「えっ、じゃあ僕も一緒に行くよ」
「いや、これはサイボーグである俺だからできることだ。君には別のことを頼みたい。やすいくんという子が、メテオ・ブラックと戦闘を開始したそうだ。君はその助太刀に行ってもらいたい」
「えっ、やすいくんが!?」
 思わぬところでやすいくんの名を聞き、わたあめは驚いた。
「場所は、カモン城城門に繋がる大通りだそうだ」
「わかった。行ってくるよ」
「ああ、健闘を祈る。トゥトゥトゥトゥンバーッ!」
 トゥンバはそう言うと、砂煙を上げながら物凄い速度で走り去っていった。
 わたあめは自分も早くやすいくんの所に向かおうと思うが、その時空からわたあめを呼ぶ声が聞こえる。
「おーい、わたあめー!」
「あっ、カラリオ。声元に戻ったんだね」
 カラリオはわたあめの前に降り立つ。
「ああ、ドッパー先生から薬を貰ってな」
「それで、キツネ男は?」
「今手術中だ。ドッパー先生に任せておけば、きっと大丈夫だろう」
「うん、それはよかったよ。ところでカラリオ……」
 わたあめは、カラリオにトゥンバから聞いたことを話した。
「それで、君にやすいくんの所まで連れて行って欲しいんだ。空から行けば、すぐに着けるし」
「わかったぜ。でも、戦闘には参加できねえからな」
 そう言ってカラリオはわたあめを両腕で抱え込むと、二枚のマントを翼のように広げ飛び立った。


 わたあめとカラリオが学校を出発する少し前のこと。
 広場からカモン城へと続く道で、やすいくんはメテオ・ブラックと対峙していた。
「見つけたぞ、メテオ・ブラック!」
 やすいくんは剣を抜き、その切先をメテオ・ブラックに向ける。やすいくんの姿を見たメテオ・ブラックは歩みを止め、背中の斧に手をかけた。
「何だてめえは」
「我こそは水晶騎士やすいくん。クリスタリアの仇、討たせてもらう!」
 メテオ・ブラックを鋭く睨みつけたやすいくんは、スイクンを走らせる。
 やすいくんの姿が風のように消え、次の瞬間メテオの前に現れる。メテオ・ブラックの顔面目掛けて、高速の突きが繰り出された。
 メテオ・ブラックは微動だにせず、額で剣先を受け止める。
「俺の皮膚はダイヤモンドよりも硬い。効かねえなぁ、そんななまくら」
 そう話すメテオ・ブラックの全身から放たれる気迫に圧されたやすいくんは、思わず後退して距離をあける。
「くっ……」
 一対一で対峙したメテオ・ブラックは、クリスタリアで会った時よりも遥かに巨大に見えた。ただその場にいるだけで、恐ろしいまでの存在感を放っている。やすいくんは、俺は決してビビってなどいないと、自分に言い聞かせる。
「俺は……お前を倒す! クリスタリアの仇を討ち……ブルークリスタルを取り戻し……このカモン王国を守ってみせる!」
 やすいくんは剣を空に掲げる。
「クリスタルスパイク!」
 その言葉と共に、地面から水晶柱が突き出した。だがメテオ・ブラックに当たった水晶柱は粉々に砕け、傷一つ与えることはできない。
「負けるかあああっ!」
 次々と現れる水晶柱を、メテオ・ブラックはその身に触れるだけで粉砕する。
「そんなものが攻撃か? 攻撃ってのはなあ、こうやってやるもんだ」
 メテオ・ブラックは斧を一つ手に取り、軽く一振り。凄まじいまでの衝撃波が放たれ、無数の水晶柱と共に辺り一帯全てを無に帰す。
 とっさにクリスタルバリアを張るやすいくんだったが、バリアはあっという間に砕かれる。やすいくんは大きく吹き飛ばされた。
(な、何てパワーだ……)
 バリアのお陰でなんとか致命傷を避けたやすいくんは、スイクンと共に立ち上がる。先程まで建物や木々に溢れていた街並みを、一瞬にして更地に変えてしまったメテオ・ブラックの圧倒的攻撃力に戦慄を覚えた。
 メテオ・ブラックはその様子をせせら笑い、やすいくんが動くのをじっと待っている。
「それでも……俺は……」
 やすいくんは一旦俯いた後、再びメテオ・ブラックに目を向ける。
「行くぞスイクン。これは決めたことなんだ。今更引き下がるわけにはいかない」
 己を鼓舞するように剣で空を切り、やすいくんはスイクンを走らせる。メテオ・ブラックと、真正面からぶつかり合おうと。
「はああああ! クリスタルスラッシュ!」
 メテオ・ブラックの横を駆け抜ける様に、一閃。無数の水晶が迸るが、それでもメテオ・ブラックは無傷。
「まだだ! クリスタルスラッシュ! クリスタルスラッシュ! クリスタルスラッシュ!」
 息も吐かせぬ、クリスタルスラッシュの連打。効かないとわかっていてもなお、やすいくんは攻撃を続ける。

「見てカラリオ、あそこにやすいくんが!」
 カラリオに抱えられて飛行するわたあめは、東方に明らかな異常を見つける。以前まで大通りのあった場所が、そこだけぽっかりと更地に変わっているのだ。そしてその中央で、やすいくんとメテオ・ブラックが戦っていた。
「何だありゃあ……まさかあの怪人がやったのか!?」
 あの惨状を見て、カラリオは背筋が凍る。
「あっ、おい見ろわたあめ!」
 突如、カラリオはやすいくんが戦っているより北東を指差した。そこには、血まみれになって倒れているごつごつあめが。
「ごつごつあめ!」
「どうする、わたあめ」
「やすいくんも大事だけど、まずはごつごつあめを助けなきゃ!」
 地面に降りたわたあめは、ごつごつあめの下に駆け寄り心臓に手を当てる。
「し、死んでるのか?」
「大丈夫、まだ生きてる!」
 恐る恐る訊くカラリオに、わたあめは答えた。
「でも、このままじゃ死んでしまうのも時間の問題だ。カラリオ、君はごつごつあめを病院へ。僕は走ってやすいくんのとこに行くよ」
「わかった。くっ……重いなこいつ」
 力いっぱいごつごつあめを持ち上げ、病院の方に飛び去ってゆくカラリオ。わたあめはそれを見送ると、やすいくんの戦っている方に走っていった。

 何度も、何度も、何度も何度も繰り返しクリスタルスラッシュを撃つやすいくん。しかしメテオ・ブラックに効いている様子は無く、剣のぶつかる音が虚しく響く。
「どんなに硬い皮膚でも、これだけ攻撃を繰り返せばいつかは耐えられなくなるはず……とでも思っているのか?」
 作戦を見透かされ、やすいくんははっと手を止める。
「クク……もう終わりか、小僧」
 不気味に微笑むメテオ・ブラックに対し、やすいくんは得も知れぬ恐怖を感じ引き下がった。
 メテオ・ブラックに特別動く気配は無く、ただ笑っているのみである。やすいくんを小馬鹿にした態度で、いつでも殺せるという余裕を持っての遊びであった。
 わたあめは、その状況でこの場に辿り着いた。
「あれ、カモンベイビー?」
 吹き飛ばされた瓦礫の裏で、カモンベイビーが隠れてやすいくんの戦いを見ていた。
「シーッ、静かにしろ! 気付かれちまうだろ!」
「ご、ごめん、でもどうして見てるだけで戦わないの?」
「お、俺も本当は戦うつもりで来たんだよ! あいつには、一応ちょっと助けてもらったし……でも出ていけるわけねーだろ! 見ろよあのバケモン! 俺らが出ていって一体何になるってんだよ!」
「確かにそうかもしれないけど……僕はやすいくんを助けたいんだ!」
 メテオ・ブラックの戦いを見て、完全に怯えてしまっているカモンベイビー。だがわたあめは、己の意思を変えない。
「やすいくん、僕も戦うよ!」
 瓦礫の残る場所から更地へと足を踏み入れ、戦う意思を示す。だがやすいくんは。
「来るな!」
 やすいくんに静止され、わたあめは足を止める。
「これは俺の戦いだ。お前達は手を出すな!」
 やすいくんは剣を振り、再びメテオ・ブラックに向かっていく。
「俺が、この国を守るんだーっ!」
 振り下ろされた剣を、メテオ・ブラックはその身で受け止める。
「そうだ思い出したぞ。お前はあの時クリスタリアの国王に逃がされてた水晶騎士か。君主に守られる騎士たぁ、情けないことこの上ないなあ」
 ここで対峙した時からわかっていたことを、さも今思い出したかのように語ってやすいくんを挑発するメテオ・ブラック。
「俺はクリスタリアでお前を除く全ての水晶騎士と戦い殺してきた……だがお前は今まで戦った水晶騎士の中で最も弱い。国王から戦力扱いされないのも当然かもなぁ、クハハハハハ」
 やすいくんは顔を赤くし、歯を食いしばる。だが、ふと何かを思い出し深呼吸。
「ああそうだ、至極お前の言う通りだ。俺は弱い。あまりにも弱い。だがそれでも、俺にはやらねばならないことがある。クリスタリアの、水晶騎士として!」
 はらわたが煮えくり返るような思いを押さえ込みながら、再び剣を叩きつける。その表情は怒りと悲しみと絶望が入り混じり、苦悶に歪んでいた。
「クク……そうかい。じゃあお望み通り殺してやるとするか」
 メテオ・ブラックは軽く斧を振る。その振りはやすいくんの反応速度を遥かに超えており、やすいくんにかわす術は無い。
 一面に飛び散る鮮血。やすいくんを庇ったスイクンが、吹き飛ばされて倒れた。
「スイクン!」
 スイクンは腹がざっくりと裂け、そこから血が湧き水のように流れ出している。
「っ……すまないスイクン」
 やすいくんは自らの足で駆け出すと、またメテオ・ブラックに剣の連打を浴びせかける。
「おいおいせっかくお友達が庇ってくれたのに、また死にに来たのか。どうやらお前は相当死にたいらしいな」
 メテオ・ブラックは、もう一本の斧に手を掛ける。大斧二刀流、これぞメテオ・ブラック本来にして本気のスタイル。
「死ねぃ! メテオ・ダブル・アックス・クラッシュ!」
 二本の斧を上段に構え、斜め十字を描くように振り下ろす。凄まじい衝撃波が巻き起こり、わたあめは思わず目を瞑る。
 血飛沫と共に吹き飛んだやすいくんは、わたあめの足元に倒れた。
「やすいくん!」
 二つの深い傷を負ったやすいくんは、最早指一本動かすことすらままならない虫の息だった。だが完全敗北を喫しその命も尽きかけているにも関わらず、その表情は安らいでいた。
「そうだ……これでいいんだ……これで俺の役目は終わった……これでやっと……皆のところに行ける……」
 その言葉を聞き、わたあめははっとした。
「やすいくん、まさか君は……」
 わたあめは膨らませたわたをやすいくんの体に当て、止血しようとする。純白のわたは、すぐ真っ赤に染まった。
「わたあめ、これを使え」
 カモンベイビーは自慢のマントを破き、包帯のようにしてわたあめに渡した。
「ありがとうカモンベイビー」
 わたあめはカモンベイビーのマントを、やすいくんの体に巻く。
「よせ……そんなことをしても無駄だ……」
「駄目だ! 死んじゃ駄目だよ、やすいくん!」
 わたあめが必死に手当てをするも、やすいくんはそれを拒否する。
「お、おいわたあめ!」
 カモンベイビーが、メテオ・ブラックの方を指差してわたあめを呼ぶ。メテオ・ブラックは、一歩一歩わたあめ達の方に近づいてきていた。
「ヤバいぜ……俺ら三人纏めてとどめを刺す気だ!」
 慌てて構えるカモンベイビーだったが、足が竦みへっぴり腰になっている。その上マントも無く、カモンブラスターはエネルギー切れ。勝つどころか逃げられる気さえ一切しなかった。
「待てい!」
 どこからか、渋い声が響いた。メテオ・ブラックは二本の斧を構え、どこからともなく現れた重たい斬撃を防御する。
「ほう……大剣豪か」
 そこに現れたのは、大剣を手にした世界最強の剣士、大剣豪オヤジ。
「間に合ったようじゃの……ここからはわしに任せよ!」
 

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