第34話 極悪最強メテオ・ブラック

 ドッパー医院前では、わたあめとた・カー君が戦っていた。
 た・カー君は連続で頭ハンマーを繰り出し、わたあめを追い詰めようとする。わたあめはそれをふんわりガードで一回一回しっかりと受け止めつつ、反撃のチャンスを窺っていた。
 頭がぶつかった瞬間に、わたあめはわたを大きく膨らます。反動でた・カー君の体がふらついた。わたあめはその隙に、た・カー君の足元にわたを投げる。
「はあああっ、わた投げ! わた再生! わた投げ! わた再生!」
 わたの爆発によって転倒したた・カー君に、わたあめはわた投げとわた再生を繰り返して怒涛の猛攻を仕掛ける。打撃相手にはめっぽう強いた・カー君も、爆発相手には無力だった。ドッパーのアドバイスをしっかりと活かし、有効な攻撃を叩き込む。
「く……ブチ殺してやらあ!」
 爆発に耐えながら、た・カー君はわたあめに向かって蛇のように近づく。そして巻きつこうと一気に体を伸ばすが、膨らんだわたに阻まれてかわされる。更に顔面にわた投げを喰らわされ、地面に突っ伏した。
(くそっ、コンクリートの上じゃ俺の本領は発揮できねえ!)
 た・カー君は頭で地面を小突きながら、そんなことを考える。
 その後、何かを思いついたかのように頭を上げると、急にわたあめに背を向け逃げ出した。
「タカカカ……仕方が無え、病院を破壊するのはやめるとするか。どこか別の場所を破壊しに行くぜー!」
「ま、待て!」
 わざとらしくそう言って、た・カー君は蛇のように体をくねらせて高速で這い移動を始める。
 それが罠であることは解り切っていたが、わたあめは追うしかなかった。相手の言う通り、放っておけば当然町を破壊される。それに相手が病院を離れてくれるのはむしろ好都合であった。
 とりあえず今は相手を追いかけながら、町を破壊させないように攻撃を繰り返すしかない。わたあめは相手の動向を警戒しながら、わたをぎゅっと握り締め走った。

 カモンベースでも、た・カー君とわたあめが移動を始めたこと、カラリオの前に現れた謎の助っ人がモノクリオを倒したことがモニターに映し出されていた。
「どうだね、あれこそが我らの新たな切り札だ。かっこいいだろう」
「でも、あのカラリオという男はゾウラ族に敗れました。やはりこの国の戦士は弱いとしか思えません」
 自慢げに話すカモンキングに対し、やすいくんは冷めた返事をする。
「確かにカラリオは負けた。だが、彼が時間を稼いでくれたお陰で田中博士はあの切り札を完成させられたのだ。彼の戦いは決して無駄ではなかった」
「負けたのに……無駄ではなかった……? ではなぜ……俺には戦わせてくれなかったのですか……!」
 やすいくんは拳を握り締め、震えながら言う。せっかく落ち着いたかと思ったらまた始まったと、カモンキングは呆れていた。
(むう……国の仇が憎いのはわかるが、これではまるで死に急いでいるようなものではないか。いや、それとも彼は本当に……)
 カモンキングは心配そうにやすいくんの方を見るが、当のやすいくんは憎しみに顔を強張らせ、画面の奥のメテオ・ブラックを睨みつけていた。

 わたわ町東部の広場では、ごつごつあめとメテオ・ブラックが交戦中である。
「だありゃあああ! ごつくらえ!」
 ごつごつあめは跳び上がり、ごつごつを掴んで殴りかかった。その攻撃はメテオ・ブラックの頬に見事に当たる。更にそこから、着地するまでに嵐の如きパンチの連打。一発だけでも凄まじい威力を持つごつごつあめのパンチ。それを連続で受ければ、並の怪人では耐えられない。
 しかし、今戦っているのはゾウラ四天王の一角たるメテオ・ブラック。そう易々と勝てる相手ではないことを、ごつごつあめも理解していた。
「クク……やはりこの程度じゃ倒れないか……面白え」
 涼しい顔をし、まるで効いている気配の無いメテオ・ブラックを前にしてなお、ごつごつあめは余裕の表情を崩さない。
 ごつごつあめには、勝つ自信があったのだ。
 わたろうがわたわ町を去ってから、ごつごつあめは修行の量を三倍に増やした。わたろうに完全敗北を喫し一族のしがらみから解き放たれた今、ごつごつあめの目指すものは真の最強。迷いを捨て、己と真摯に向き合うことで彼は復讐者から真の戦士へと生まれ変わった。
 去年のわたろうと同じ学年になったごつごつあめは、去年のわたろうを完全に超えたと自負している。だが、今のわたろうを超えたとは思っていない。わたろうは旅の中で、想像を絶するほどの修行と戦いを繰り返していることだろう。だが自分もわたわ町を守りながらそれに負けじと力をつけ、いつか必ずわたろうを超えてみせる。それまでは自分がわたわ町最強を名乗り、わたろうが帰ってきた時に真の最強を決める勝負をするのだ。
「俺は強い……今の俺なら七幹部だろうが四天王だろうが負ける気がしねえ」
 ごつごつと石を打ち合わせて火花を散らし、ごつごつあめは不敵に微笑む。
「ハハハハハ、愉快なガキだ」
 無防備に両腕を広げて笑うメテオ・ブラックに、ごつごつあめは拳を叩き込む。
「ガキ扱いとはいい度胸だなデカブツ野郎が」
 容赦の無い殴る蹴るの連打。しかしメテオ・ブラックの身には傷一つ付かない。
「そんなもんかい、最強さんよぉ」
 メテオ・ブラックの巨大な掌が、ごつごつあめの頭を鷲掴みにした。驚くごつごつあめを、メテオ・ブラックは大きく弧を描いて放り投げる。
「ぐわあああ!」
 ごつごつあめは民家に突っ込み、屋根をぶち抜いた。
「呆気ねえな。これで終わりか?」
「んなわきゃーねえだろ」
 民家の壁を拳で粉砕し、ごつごつあめが姿を現す。ごつごつあめは勢いよく踏み込んで再びラッシュをかける。
「おいおいワンパターンだなお前。さっきから殴ってばっかじゃねーの。まさかとは思うが、お前のそのヘナチョコパンチが俺に効いているとでも思ってるんじゃねーだろうな」
「ヘナチョコ……だと……」
 ごつごつあめが見上げた瞬間、羽虫でも払うかのような平手打ちを喰らって地面に叩き伏せられた。
「ガホッ……」
 地面に打ち付けて前歯を折り、口から血を流す。
「く……まだまだァ!」
 低い姿勢から立ち上がり様に繰り出したアッパーが、綺麗に顎に入る。しかし、メテオ・ブラックはぴくりとも動かない。
「俺とお前とじゃ格が違いすぎんだよ。お前の攻撃じゃ、俺のダイヤモンドより硬い皮膚に傷一つ付けられねえ」
「なっ……」
 その言葉を聞いたごつごつあめは逃げ腰で後退し、メテオ・ブラックから距離をとる。
「き、傷一つ付けられねえだと? 舐めた口聞きやがって。いいぜ……二度とそんな口が聞けないよう、まずはその角へし折ってやる! 俺の最大最強の奥義でな!」
 ごつごつあめは大声で叫ぶと、両腕と両脚を広げ、中腰の姿勢で構える。
「死ね死ね死ねぇ! ごつごつデストロイヤァァァァ!」
 地面を蹴って跳び上がり、ごつごつラッシュを繰り出しながら錐揉み回転で敵に突っ込む。ごつごつラッシュの破壊力に突撃と回転の威力が加わった、最大最強の奥義の名に相応しい超絶必殺技である。
 だがメテオ・ブラックは、突っ込んできたごつごつあめの両手首を掬い取るように掴み、右手の力だけで完全に止めてしまった。
「な……な……」
 ごつごつあめは唇をプルプルと震わせながら、ごつごつデストロイヤーを破られたことに絶望していた。この瞬間、ごつごつあめの心は完全に折れた。いや、正確に言えば、傷一つ付けられないと言われた時点で既に折れていた。ごつごつデストロイヤーは、最後の悪足掻きであったのだ。
 メテオ・ブラックは自分と目線を合わせるようにごつごつあめを持ち上げると、右腕に力を入れる。
「うぐあああああっ!」
 ベキバキボキボキと鈍い音が鳴る。握力だけで、両腕の骨を粉砕したのだ。
 ごつごつあめが悲鳴を上げると、メテオ・ブラックは歓喜して恍惚の笑みを見せた。
「デストロイヤー、破壊する者……その名が相応しいのはお前じゃねえ。このメテオ・ブラックだ」
 メテオ・ブラックが手を離すと、ごつごつあめは地面に落ちてへたり込んだ。そこをすかさず、顔面に膝蹴りを入れる。
 吹き飛ばされたごつごつあめは民家の壁に叩きつけられ、うなだれる。メテオ・ブラックはわざと殺さない威力で攻撃していたのだが、それでもダメージは大きい。両腕はもう使い物にならないし、鼻も折られてしまった。既にごつごつあめに勝機は無く、完全に戦意喪失していた。
「さーて、そろそろ遊びは終わりにするか」
 メテオ・ブラックは背中に収めた二本の斧を手に取る。ごつごつあめの顔が、恐怖と絶望に青ざめた。メテオ・ブラックは本気など出してはいなかったのだ。今までの戦いは、本人の言うように「遊び」でしかなかったのである。
「こ、怖い……」
 斧を手にしたメテオ・ブラックは、凄まじい威圧感を放つ。恐怖に震えるごつごつあめに、最初の威勢はどこにも無かった。
 メテオ・ブラックはごつごつあめに歩み寄る。その一歩一歩が、ごつごつあめにとっては死のカウントダウンに感じられた。
「い、嫌だ……怖い……助けて……うわああああ!」
 使命も誇りも、何もかも投げ捨てて逃げ出したかったごつごつあめだが、後ろは壁。その上今の自分に、立って逃げ出せるだけの体力は残されていない。メテオ・ブラックは、既に目の前まで来ていた。
「メテオ・ダブル・アックス・クラッシュ!」
 二本の斧を斜め十字に振り下ろし、ごつごつあめを叩き斬る。
「ウギャアアアアアアア!!!」
 悲鳴と共に大量の血を撒き散らし、ごつごつあめは倒れた。後ろの民家は、爆発するかのように吹き飛んで崩れた。
 メテオ・ブラックは斧を再び背中に収めると、空き缶でも蹴るかのようにごつごつあめを蹴って退かし、カモン城へと足を進めた。

 二人の戦いをカモンベースから見ていたやすいくんは、ごつごつあめのあまりに無残な姿を見ていられず、思わず目を逸らした。水晶騎士団の先輩達が目の前で殺される様子が、繰り返しフラッシュバックした。
「……カモンキング陛下、やはり自分はメテオ・ブラックと戦いに行きます」
 やすいくんは後ろを向き、そう告げる。
「待て、行ってどうなる。今の戦いを見ただろう」
「たとえ陛下の命令に背いたとしても、自分は行きます。それが今、自分にとって本当にやるべきことですから」
 やすいくんの決意は固かった。カモンキングの返事も待たず、エレベータに走って飛び込み、カモンベースを出て行ってしまう。
「陛下、止めるよう城にいる兵士に指示を出しましょうか」
「いや、構わん。好きにさせてやれ」
 カモンキングはそう言うと、ぐったりと椅子に腰掛け目を閉じた。それは諦めか、或いは何か別の意思があるのか。オペレーター達にその真意は読めなかった。

「行くぞ、スイクン!」
 干し草をたっぷり食べて満腹になったスイクンは昼寝をしていたが、やすいくんの声を聞いて目を覚ます。
 やすいくんは立ち上がったスイクンに跳んで跨り、手綱を手に取る。
「待っていろメテオ・ブラック。貴様は……必ず俺が倒す!」
 蹄の音を響かせて、やすいくんは戦場に赴く。その瞳の先にあるものはメテオ・ブラックか、それとも――。
 

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