第30話 破壊部隊強襲!

「カモンキング陛下! 町にゾウラ族が!」
 カモン城に着いたやすいくんは、慌てて謁見の間に駆け込んだ。
「わかっておる」
 玉座に構えるカモンキングは、落ち着いた声でそう言った。
「はっ……そうでしたか」
 そう言われてすごすごと帰ろうとするやすいくんを、カモンキングは呼び止める。
「待て、どこへ行く。せっかく来たのだ、少し休んでいくといい」
「いえ、自分にそんな時間は……」
「ゾウラ族と戦いに行くのか?」
「はい」
「ならん。休め」
 やすいくんは、驚き振り返る。
「何故です陛下!」
「君は既に一度ゾウラ族と戦っているのだろう。疲れた体で無理して戦うのは死にに行くようなものだ」
「自分はまだやれます。それに、何故そのことを……」
 と、そう言ったところ、緊張を壊すかのようにやすいくんの腹が鳴った。やすいくんは、はっと赤くなる。
「腹も空かせておるようだしな。食事の準備をさせておこう。それまで待つついでに、わしと一緒に来なさい。君に見せたいものがある」
 カモンキングはそう言うと、やすいくんの後ろの大扉の隙間に目を向ける。
「そこで隠れてるカモンベイビーも、一緒にな」
 カモンベイビーはどきりとした。性懲りも無く自分の家に入ってきたやすいくんを発見し、後をつけていたのである。
「やすいくんよ、何故君が戦っていたことをわしが知っておるのか、そこで話そう」
 やすいくんとカモンベイビーは、言われるままカモンキングについていく。やすいくんは本当は行きたくなかったが、国王の命令であるため渋々足を進めた。
 謁見の間の右奥にひっそりとある小さな扉を開け、長い廊下を抜けた先に一つのエレベーターがある。そのエレベーターで地下まで下りると、その部屋はあった。
「な、何だ、ここは……!」
 連れてこられた二人は、思わず口を開けて驚いてしまった。それは少なくとも、中世風の城には似つかわしくない、さながらSF映画に出てくるような光景。部屋の壁には一面に機械が敷き詰められ、多数のオペレーターがせわしなく操作している。前面には大きなモニターがあり、そこにわたわ町の地図が映し出されていた。
「驚いたかね。ここはカモンベース。対ゾウラ族用に開発した、秘密基地だ」
「秘密基地!?」
 カモンキングは、部屋の中央にある指令席に座る。
「うむ、あのモニターを見よ」
 カモンキングが指差すのは、前面の大画面。獲物に向かって跳ねる獅子のような地形をしたわたわ町の地図に、五つの赤い点が置かれている。
「あの一つ一つが、ゾウラ族の怪人だ」
「ゾウラ族が……五体も!?」

 やすいくんがかばいかつひろを倒しカモン城に向かっている間に、破壊部隊の怪人は次々とわたわ町に侵入していた。
 わたわ町南部から侵入したのは、蛇のように長い体を持つ怪人。その体をくねらせ、町行く人々を吹き飛ばしながら突き進む。怪人の目指す先は、ドッパー医院である。
「ターカカカカカ、俺は病院を破壊するぜー!」
 わたわ町北部では、右に白のマント、左に黒のマントを付けた怪人が、二枚のマントを翼のようにして飛行しながら町に超音波を撒き散らしていた。向かう先は、田中研究所。
「モノノノノ、俺が破壊するのは天才科学者の研究所だー!」
 わたわ町西部。ここに現れたのは、栗のような頭を持つ巨体の怪人である。右手は掴んだ背丈より更に大きな槍を振り回し、建物を薙ぎ倒しながらわたわ小学校に向けて進撃する。
「クリクリクリ、俺は学校を破壊する!」
 そして、わたわ町東部。昨年アートロンの襲撃により甚大な被害を被ったこの地区に現れたのは、そのアートロンより遥かに強いメテオ・ブラックであった。
「俺が破壊するのは……当然、あの城だ!」
 聳え立つカモン城を指差し、メテオ・ブラックは宣言する。その傍らには、フードで顔を隠した破壊部隊の最後の一人が立つ。
「お供致しますよ、メテオ・ブラック様」
 メテオ・ブラックとお供の怪人は眼前の建物を粉砕し、カモン城目掛けて一直線に突撃した。
 破壊部隊の怪人達は、皆自分が七幹部入りするためにわたわ町の重要な施設を破壊しようとしていた。複数の怪人から一斉に襲撃を受けたわたわ町は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。人々の混乱と絶望は、半端なものではなかった。
「皆さんこちらです! 早く避難してください!」
 恐れ戦く住民達の下に、カモン城の兵士達は迅速に駆けつけた。そしてカモンベースからの指示で人々を安全な場所に避難させるのである。

 大画面のサイドにある複数の小さなモニターに、各地の映像が映し出される。現場で頑張る兵士達と、指示を出すオペレーター達の姿を、やすいくんとカモンベイビーは手に汗を握りながら見ていた。
「す、凄い……ここまでゾウラ族対策を完備しているなんて……」
 やすいくんははっと気がつく。
「もしかして、自分が戦っていたこともここで見ていたと……」
「うむ、あれは見事な戦いぶりだった」
「だが、奴らを倒さないことには根本的な解決にはなりません。この国の兵士には、ゾウラ族と戦えるだけの力があるのですか?」
「確かに、兵士達では厳しいだろう。だが、兵士達より遥かに強いわたわ町の猛者達に、既に連絡がいってある。画面を見よ」
 大画面に、四つの青い点が表示された。

 わたわ町西部。破壊部隊の怪人は、わたわ小学校の校庭に侵入する。
「さあ、破壊だ!」
 怪人は槍を担ぎ、校舎に向かって走る。
「そうはさせないコン!」
 甲高い声が、校庭に響く。三階の窓から一人の少年が飛び降り、空中で三回転して怪人の前に着地した。
「ゾウラ族、お前はこのキツネ男がボッコボコにしてやるコン」
 キツネ男は、相手にコンマーを向けて不敵に笑う。
「あ? 何だてめえ。このクリード様とやろうってのか」


 栗頭の怪人クリードは、不機嫌そうに言った。

 わたわ町北部。怪人は上空から田中研究所目掛けて飛来する。突如、後ろからキックの不意打ちが飛んできた。怪人は空中で立体的に旋回し、容易くかわす。仕掛けたのはカラリオであった。カラリオは怪人の前面に回り込むと、マイクを右手に、左手で怪人を指差しポーズを決めた。
「おっと、田中博士の研究所には、このカラリオが指一本触れさせないぜカラァ〜」
 水色と黄緑のマントを羽ばたかせ、マイクに向かって歌うように言う。
「モノノノノ、やれるもんならやってみな。このモノクリオ相手にな」
 怪人モノクリオは黒と白のマントを羽ばたかせ、マイクを構えてそう言った。その姿は、カラリオと瓜二つ。カラリオが驚いたのは言うまでもない。


「な、何だこいつは……気味が悪いぜ」
 先程の余裕は一瞬で消え失せ、カラリオの顔が青ざめた。

 わたわ町東部。進撃するメテオ・ブラックともう一人の怪人を、ごつごうあめが迎え撃つ。
「てめーが大将か。この俺が相手してやんぜ。わたわ町最強のこのごつごつあめがな」
 カモン城城門に続く広場で、ごつごつあめは腕を組み仁王立ちする。
「メテオ・ブラック様、ここは私が」
 フードを被った怪人が前に出ようとするが、メテオ・ブラックがそれを静止する。
「せっかくご指名してくれたんだ、俺がやる。お前は先に行ってな」
「……仰せのままに」
 フードの怪人はダッシュし、ごつごつあめの上を跳び越えようとする。
「あっ、てめー待ちやがれ!」
 怪人の足を掴もうと、ごつごつあめは手を伸ばす。その瞬間、凄まじい衝撃がごつごつあめを吹き飛ばした。
「ぐわああああ!」
 ごつごつあめは奥の建物に叩きつけられ、崩れた建物の瓦礫の下敷きとなった。
「貴様の相手は俺なんだろ?」
 メテオ・ブラックは足を上げたまま、そう言った。爪先から、煙が上がっていた。一瞬の内に放たれた強烈な蹴りが、見事に炸裂したのである。
 だが、猛特訓を重ね更に強くなった今のごつごつあめにとって、この程度の攻撃は大して痛くもない。瓦礫を吹き飛ばし、ごつごつあめは立ち上がる。
「野郎……ブチ殺す」
 ごつごつと石をしっかりと握り、ギザギザの歯を光らせて怪人と見紛う邪悪な笑みを浮かべ、ごつごつあめはメテオ・ブラックに歩み寄った。
「クク……貴様の体、粉々に破壊してやるよ」
 メテオ・ブラックも負けじと邪悪な笑みで、両腕を広げて身構えた。

「おおーっ! 流石あいつらだぜ!」
 カモンベースでは、それらの状況がライブカメラによって中継されていた。わたわ町を守るために戦う戦士達の姿に、カモンベイビーは興奮を抑えきれないでいる。
「いや……病院に向かうはずの点は動いていない」
 そう言ってやすいくんが指差すのは、公園の位置でずっと動かずにじっとしている青い点である。
「それが……わたあめ君はいま自宅を出て一人で公園にいるようで……彼は携帯電話を持っていないので、連絡がとれなかったのです。今、わたぴよ君に探しにいってもらっています」
「何だよわたあめのヤロー、こんな時に!」
 オペレーターが返答すると、カモンベイビーは文句を垂れた。

 同刻、わたあめは先日ハミハミヘロと戦った自宅近くの公園で、一人特訓をしていた。わたハリケーンカッターの完全習得に向けて、ただひたすら練習を続ける。品行方正なよい子であるわたあめが夜まで外に出ているのは珍しいことだが、学校で特訓するやすいくんの姿を見ていてもたってもいられなくなったのだ。
「兄ちゃーん」
 公園の入り口の方から、わたぴよの声が聞こえてきた。どうやら相当急いでいたらしく、全身汗だくで息を切らしていた。
「どうしたの、わたぴよ」
「兄ちゃん、さっきお城から電話があって……五体のゾウラ族が一気にわたわ町に攻め込んできたんだって!」
「なんだって!?」
「それで、兄ちゃんには今すぐドッパー医院に行ってほしいって。ドッパー医院が、狙われてるらしいんだ。学校や田中博士の研究所も他の怪人に狙われてるらしいけど、そこはカラリオさんやキツネ男さんが行ってくれてるんだって」
「わかった、ドッパー医院だね。今すぐ行ってくるよ」
 わたあめはそう言うと、慌てて駆け出した。

 カモンベースでも、わたあめが移動を始めたことが確認された。だが、城との距離や移動速度を怪人と比較すればどうやっても間に合わないことは、誰が見ても明らかであった。
「どうするんだよ父上、この状況で病院を破壊されたら……」
 カモンベイビーの言葉に、カモンキングは苦い顔をして考え込む。
 ゾウラ族の大規模な襲撃で大量の怪我人が出ることは目に見えている。その状況で病院を破壊されれば、被害は何倍にも膨れ上がるだろう。なんとしても、ドッパー医院だけは死守しなければならない。そのために一番信頼の置けるわたあめを選出したのだが、それが裏目に出て思わぬところで躓いてしまった。
「ぬう……とにかく、まずはこの事をドッパー先生に伝えろ」

 カモンベースからの連絡を受け取ったドッパー医院では、ナース達が慌てふためいていた。怪人の足音は、もうすぐ側まで近づいている。
「あああっ、このままじゃ怪人が来ちゃいますよ! どうするんですか先生!」
「……仕方が無い」
 ドッパーは白衣を脱ぎ捨てると、ランプル毒薬を一気に飲み干した。
「僕が戦う。わたあめ君が来るまでの時間を稼ぎ、できることなら僕自身の手で敵を倒す」
「先生……」
 ドッパーははっと振り返る。窓の外から、何かが飛んでくる。
「させるか! 腹ポイント!」
 ドッパーは窓を開けて飛び出し、腹を風船のように大きく膨らませた。窓に突撃し病院に侵入しようとしていた怪人は、腹に阻まれ弾き返される。
「ちっ……何だテメェ」
 怪人は蛇のように長い体をうねらせながら言う。
「この病院は僕が守る! 僕はどくーどくードッパー、医者だ!」
 見得を切り拳を構えるドッパーに対し、怪人はタカカカとカスタネットのような声で笑う。
「医者風情がいい度胸だ。ゾウラ界最長の体を持つこのた・カー君に敵うとでも思っているのか」

 キツネ男VSクリード。
 カラリオVSモノクリオ。
 ごつごつあめVSメテオ・ブラック。
 どくーどくードッパーVSた・カー君。
 各地で戦闘が開始され、その様子がカモンベースのモニターに映し出される。


 出現した五体のうち四体は足止めに成功したが、残る一体、ごつごつあめが逃がしてしまったフードの怪人だけは、依然としてカモン城への進行を続けている。
「カモンキング陛下、自分に行かせてください!」
「ならぬ」
 やすいくんはこの機をばかりにと、カモンキングに懇願した。だが、すぐさま否定が返る。
「何故ですか! 自分は……もう二度とクリスタリアの悲劇を繰り返させたくないのです! 自分に……この国を守らせてください!」
「ならぬ」
 カモンキングは、一貫してやすいくんの出撃を許さない。やすいくんは次第に苛立ち、ふて腐れ始める。
「俺は……ただ守りたいだけなのに……」
 そう呟いて俯き、握った拳は行き場所を無くしていた。
 カモンキングは暫くやすいくんの方を見た後、やすいくんの肩に手を置き言った。
「わしは君を、重要な戦力だと考えている」
 やすいくんは顔を上げる。
「だが、腹が減っては戦はできぬと言うだろう。まずはしっかり食べて、しっかり休養を取りなさい。戦いに行くのはそれからだ」
「ですが自分は……」
「今はわたあめ君達に任せておけばいい。それとも君はわたあめ君達を信頼できんかね」
「……できません。彼らの力では奴らには……破壊部隊には勝てません。でも、自分なら勝てます。だから自分に行かせてください」
「ふむ……」
 カモンキングは困ったように首を傾げた。
「君は瓦礫の下敷きにされた人を救う際に、近くにいた人達に協力を求めたそうだね」
「それは……そうするしかなかったから……」
「戦いだって同じだ。一人ではできないことでも、仲間を頼ればできるようになる。だから今は仲間に頼り、君は休みなさい」
「彼らは……仲間ではありません。ただの他人……いえ、自分にとっては、守るべき弱い一般人です。だから自分に、彼らを守らせてください」
「やれやれ全く強情だな。どうして君はそう一人で何でも抱え込もうとする。彼らはああ見えてわたわ町でも最強クラスの戦士達だ。クリスタリアの水晶騎士団にも負けず劣らずのな。彼らはきっと、君にとってかけがえのない仲間になってくれる。他人を避けてばかりいても、何もいいことなど無いぞ」
 カモンキングの言葉を聞き、やすいくんはまた顔を俯かせる。
 その様子を見ていたカモンベイビーが、一言。
「だったら俺が行くぜ」
 カモンベイビーは父の返事を待たず、マントを翻して後ろを向き、すたすたと歩き出した。
「おい転校生、この戦いにお前の出る幕は無え。とっとと飯食って、オネンネでもしてな」
 エレベーターに乗る直前にそう言い放ち、カモンベースを出て行った。
 カモンベースに、暫し沈黙が流れる。
「陛下、やすいくん君の食事の用意ができたようです」
 オペレーターの一人が、内線からの連絡を受け取った後に言う。
「おっ、そうか。わしが食堂に案内しよう。ついてきなさい。我が城お抱えの一流シェフが作った料理だ。栄養満点だぞ」
 カモンキングはそう言ってやすいくんに背を向けると、エレベーターの方に向かった。やすいくんは、仕方が無さそうにその後を追った。
 

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