第16話 友情のカモンブラスター

 わたわ武闘会から、一週間が経った。お祭りモードは終わり、わたあめ達は普通に学校に通っていた。
 カモンベイビーはやはり、一度も学校に来ていなかった。
 もしも自分がごつごつあめに勝ち、決勝でカモンベイビーと戦っていれば……空っぽの席を見る度、わたあめはそればかり考えていた。
 だがクラスメート達は、カモンベイビーのことなど気にもしていなかった。
 あの日から、人々の話題はゾウラ族のことで持ちきりだった。オヤジは毎日のように城に出かけ、わたろうも常に落ち着かない様子だった。
 ゾウラ族が現れてから、この町は何か変わってしまった。わたあめはそんなような気がしていた。

「よう、わたあめ!」
 昼休み。隣のクラスから来たカラリオが、一人物思いにふけるわたあめに話しかけた。
「ん、どうしたのカラリオ」
「昨日新しいゲーム買ったんだ。今日俺んちこいよ」
「あ、うん。わかったよ」
 わたあめは、あまり気が乗らなかった。今は気になることが多すぎて、とてもゲームで遊んでいる気分ではなかったのだ。
「新しいゲームだって?」
「そいつはいいな!」
「俺達も行っていいか?」
 カラリオの言葉に食いついたのは、友人トリオだった。
「だったら俺も混ぜるコン」
 どこからともなく、キツネ男も現れた。
「げえっ、お前もかよ」
「何か悪いコン?」
「まあまあ、みんなで一緒にやった方が楽しいよ」
 嫌そうな顔をするカラリオを、わたあめがなだめる。
「うーん、わたあめがそう言うなら別にいいけどよ」
 そうして話していると、校庭の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「何があったんだろう」
 わたあめは、そう言って窓から外の様子を見た。直後、何かに取り憑かれたかのように、何も言わず教室を飛び出していった。
「お、おいわたあめ! どこ行くんだよ!」

 校門に立つ、一人の少年。先程まで校庭で遊んでいた生徒達は、皆ピタリと静止しそちらを見ていた。
 玄関から走ってくるわたあめを見て、少年はニヤリと笑う。
 その真っ赤なマントに身を包んだ姿は、わたあめのずっと会いたかった人物。
「カモンベイビー!」
「よう、転校生」
 わたあめはカモンベイビーの前に立つ。カモンベイビーの声を聞いただけで、死人が生き返ったかのように顔色がよくなった。
「おーい、わたあめー!」
 カラリオ達五人が、わたあめを追って校門の前に来た。カモンベイビーの姿を見るや否や、慌ててばっと構える。
「カモンベイビーてめえ! 一体何しにきやがった!」
 カラリオが怒鳴る。カモンベイビーはフッと笑った。
「そんなこと決まっているだろう。転校生と勝負しにきたのさ」
「なっ……おいわたあめ、こんな奴無視した方がいいぜ!」
「そうだそうだ! カモンベイビーなんかに構ってないで、チャイム鳴る前に教室戻ろうぜ」
「でもわたあめは戦う気満々っぽいコン」
 怒るカラリオと友人トリオに対し、キツネ男は面白がるように言った。わたあめは、わたを掴んで既に戦闘体勢に入っている。
「転校生、俺はまた強くなった。わたわ武闘会の時より、ずっとな。そしてこれが、その証拠だ」
 カモンベイビーは右手をばっと上げマントを広げる。マントに隠された腰のベルトが、姿を現す。そのベルトに取り付けられたのは、拳銃のホルスター。カモンベイビーはそこから真っ赤な銃を取り出し、わたあめに向けた。
「こいつはカモンブラスター。俺の新兵器にして、最強の武器だ」
 銃口がギラリと光る。わたあめは、ゴクリと唾を飲んだ。
「あの野郎! 自分の力じゃ勝てないからって銃なんかに頼りやがった! どこまでも卑怯でゲスな奴だ!」
「やめてカラリオ」
 わたあめは真剣な眼差しでカモンベイビーを見つめたまま、力強く言う。
「カモンベイビー、君がどうしても僕に勝ちたいという気持ちはよくわかったよ。だからこそ僕は正々堂々戦い、君を倒す。そして、今度こそ君と、友達になる!」
 ぐっとわたを握り、カモンベイビーを見る。
「フン、いくらお前といえど、このカモンブラスターには勝てないぜ!」
 カモンベイビーは、引き金にかけた人差し指に、ぐっと力を入れる。
「死ね! カモンブラスター!」
 引き金が引かれる。わたあめはわたを膨らませふんわりガードを使う。
 引き金の音だけが、無情に響いた。その場にいた全員が、何が起こったのか理解できなかった。
「あ、あれ?」
 カモンベイビーは、不思議そうに何度も引き金を引くが、ただカチカチと音がするのみである。
「お、おかしいな。どうなってんだ?」
 何度やっても何も出てこないので、恐る恐る銃口を覗き込むが、特に何かが詰まっている様子はない。その後わたあめに向け、改めてもう一度引き金を引くが結果は変わらず。
 居た堪れなくなったカモンベイビーは、顔を真っ赤にして逃げ去ってしまった。
「お、覚えてろよ、ちくしょー!」
 わたあめは、開いた口が塞がらなかった。
「何しに来たんだ、あいつ」
 カラリオが呆れて言った。

 カモン城では、今日もゾウラ族対策会議が開かれていた。
 カモンキングとカモンクイーン、国の重役達に加え、オヤジや田中博士、わたわ小学校の校長までこの会議には参加していた。
「既に、世界各国でゾウラ族が現れたとの報告が出ている。わが国でも次にいつ現れるかわからない。一刻も早く、防衛策をとらねばならぬ」
「だが、まだゾウラ界に繋がる扉の場所は特定できていないのだろう?」
「仮に特定できたとしても、肝心のわたの一族が子供三人だけでは……」
「いや、そんなことよりも問題は、何故扉の封印が解かれたのかということだ。本来扉の封印が解かれるのは五百年周期。だがそれがたったの七年で解かれたのだ。こんなことは過去に例が無い」
「やはり、前回の封印は不完全だったのだ。あんな中途半端な封印では、こうなったところで何も不自然ではない」
 緊急事態を前にし、会議に参加する者達の空気はピリピリと震えていた。だがこの緊張感を壊すように、爆音を立てて扉を開く者が一人。
「田中博士はいるか!」
 現れたのはカモンベイビーである。右手にカモンブラスターを握り、赤鬼のような形相でずかずかと会議室に入り込んでくる。騒然とする人々の横を通り過ぎ、カモンベイビーは田中博士に掴みかかった。
「おい、誰がこんな玩具の銃をよこせと言った! お前は俺を馬鹿にしてるのか!」
「その銃は人を選びます。君に使えないのは、君がその銃を使うに値しない人間だからでしょう」
 田中博士は冷淡に言った。怒りの収まらないカモンベイビーは、田中博士を放そうとしない。
 カモンキングはすっと立ち上がると、カモンベイビーの頭に容赦なく拳骨を振り下ろした。
「ぐへっ!」
 間の抜けた声を上げ、カモンベイビーは田中博士を手放す。カモンキングはそのままカモンベイビーのマントの裾を掴んで持ち上げると、プロレスで鍛えた怪力で会議室の外に放り投げた。
「わしらは今重要な会議をしておるんじゃ! お前の遊びに付き合ってる暇は無い!」
 カモンベイビーは床に腰を打ち、涙目になりながら逃げ去っていった
「まったく、少しはましになったと思ったらすぐこれだ」

 怒鳴られて逃げ出したカモンベイビーは、自室の窓から城の屋根に出て、寝転がって空を見上げていた。
 意気揚々とわたあめに戦いを挑んだが銃が使えず恥を晒し、田中博士に文句を言おうと思ったらわけのわからない理屈で相手にされず、おまけに父親に殴られ放り投げられる。カモンベイビーにとって、今日は何から何まで最悪の日だった。
 わたあめが転校してきてから、何をやっても上手くいかない。一発逆転を狙ったわたわ武闘会も失敗し、最早自分の立場は地の底まで落ちていた。
 わたあめが憎い。何よりも憎い。自分の立場を奪い、愛する人までも奪っていった最悪の宿敵。それなのにあいつは、何故か自分のことを気にかけてばかりいる。
 使用人から聞いた話だが、自分がわたわ武闘会の準備の為に引き篭もっていた時も、準決勝でわたろうに負けてコロシアムの医務室に運ばれた時も、わたわ武闘会に負けてふて腐れ引き篭もっていた時も、何度も見舞いに来ていたという。
 自分はあんなにも憎んでいるのに、何故あいつはこうも自分に友好的なのか。挙句の果てに、友達になりたいとまで言い出す始末。何から何まで理解し難い。
 そのような考えが、ずっと頭の中でループしていた。
 いくつもの雲が、カモンベイビーの上を通り過ぎていった。
 一つの小さな影が、頭上に射した。
「もーっもっもっも、王子の首を取れば、俺様の出世は間違いないもも」
 言葉を放ったのは、緑色の空飛ぶトカゲに乗った、桃色の怪物。


「あ? 何だてめえ」
「俺様はもも男。ゾウラ族の怪人だもも!」
 もも男はそう言って飛び降り、カモンベイビーを踏みつけようとする。
「うおっ!?」
 カモンベイビーは体を転がし避ける。
「ゾウラ族? 何だそりゃあ!?」
「知らないもも? まあいいもも。ももだ食い!」
 もも男は取り出した桃を食い、体を黄金に輝かせる。そしてカモンベイビーを指差して叫ぶ。
「行けぇ、ストリア軍団!」
 その声を聞き、先程までもも男を乗せていた空飛ぶトカゲの大群が、空の彼方から飛来してくる。
「ゲェーッ!」
 驚き叫ぶカモンベイビー。もも男は再びストリアに飛び乗り、腕を組んで空高くからその様子を眺める。
「この前失敗したのは俺様一人で来たせいだもも。だが今日は大量の手下を連れてきたもも。これで成功間違いなしだもも!」
 ストリアの大群は、甲高い鳴き声を上げながらカモンベイビー目掛けて一斉に突撃してくる。
「くそっ、何で俺がこんなことに……わけがわからねえ! こうなったら……ふうかぜマント!」
 カモンベイビーは起き上がり、マントを振りかざす。空中の敵には効果抜群。強風でストリアをまとめて押し返す。だが、相手の数は多く、前から後ろから次々と飛んでくる。それにどれだけふうかぜマントを使っても、相手は吹き飛ばされるだけ。ダメージを与えられない限り、敵はどんどんこちらに迫ってくる。
 カモンベイビーは、マントで敵を飛ばしつつ格闘で近くの敵を倒していく。見物しているもも男は、ニタニタと笑っていた。
「何だよ、何でこんなことになってるんだよーっ!」

 カモンベイビーが必死に戦っている頃、わたあめ達は丁度下校の時間だった。
 カラリオと友人トリオ、キツネ男が楽しそうにゲームの話をしている中、わたあめは後ろに付いてとぼとぼと歩いていた。
 ふと、わたあめは何かに勘付き後ろを振り返る。カモン城の近くの空に、無数の黒い点が浮かんでいるのが見えた。
 わたあめははっと目を見開くと、カラリオの家とは逆方向、真後ろに駆け出した。
「あっ、おいわたあめ、どこ行くんだよ!」

 一方カモンベイビーは、苦戦しつつも何とか大半のストリアを撃破していた。わたあめを倒すためにしていた特訓は決して無駄ではなく、ストリア如きパンチ一発で軽く落とすことができた。
 だが、相手の武器は数である。塵も積もれば山となるという言葉があるように、どんなザコだろうと大量に出てこられたら実力者でも苦戦は必至なのである。
 カモンベイビーは既に全身ボロボロ、満身創痍であった。
「もっもっも、そろそろ俺の出番だもも」
 もも男はカモンベイビーの前に飛び降り、下品に笑う。
「もも……パンチ!」
 疲れきってガードもままならないカモンベイビーに、容赦なく拳が打ち込まれる。倒れかかったところで、もも男はマントを掴む。
「こんなマント、こうしてやるもも」
 マントをビリビリに破き、破片をばら撒く。
「これでもう風を起こすことはできないもも。さあ、ここから落っこちて死ぬもも!」
 顔面を殴られ、城の屋根を端まで転がっていく。落ちそうになったところで、カモンベイビーは最後の力を振り絞り屋根の端を右手で掴む。
「往生際の悪い奴だもも。ザコはとっとと死ねばいいもも」
 もも男はカモンベイビーの右手を踏みつけ、ぐりぐりと足を動かす。カモンベイビーは苦悶の呻き声を上げた。右手一本の力でぶら下がるだけでも辛いのに、その右手を攻撃されては一溜まりもなかった。
 ふと下に目をやると、そこには障害物一つ無く地面に一直線。全身から血の気が引き、顔は死んだように青くなった。
 死への恐怖が、カモンベイビーの心を蝕んだ。
 思えば、何一ついいことのない人生だった。威張り散らすことしか能の無い裸の王様から、誰からも馬鹿にされる道化師へ。十年にも満たない人生を要約すれば、たったそれだけだった。
(死にたくない……)
 ぽろぽろと涙を流すが、もも男はそれを見て喜び、より足に力を籠める。カモンベイビーの右手は、次第に力を失っていった。
(誰……か……助……け……)
 その時、カモンベイビーの部屋から小さな影が飛び出した。
「わーたー、投げーっ!」
 わたが飛んできて、もも男を吹っ飛ばす。完全に不意を突かれたもも男は、真っ逆さまに落下していった。
「カモンベイビー、今助けるよ!」
 続けて、わたあめが窓から飛び出し、今にも落ちようとしているカモンベイビーの手首を掴んだ。
「転校生……!」
 思わぬ人物の登場に、カモンベイビーは目を丸くして驚いた。わたあめに引っ張られ、カモンベイビーは屋根に上がる。
「カモンベイビー、大丈夫?」
「転校生、お前どうして俺を助けた……俺はお前に散々酷いことしたんだぞ!」
 カモンベイビーは涙を飛ばして叫ぶ。わたあめは、きょとんとしてしまった。
「どうしてって……そんなの決まってるじゃないか。君が死んだら悲しいからだよ」
「悲しい!? 俺が死んでか!? お前は、俺が嫌いじゃないのか?」
「嫌いなわけないよ! せっかく同じクラスになれたのに、ずっとケンカしたままなんて嫌だよ! だからさ、カモンベイビー、僕と友達になろうよ!」
 この男は、なんと純粋な心を持っているのだろうか。何もかも汚れきったカモンベイビーに、その姿はあまりにも眩しく見えた。だがそれと同時に、妙に心惹かれていた。誰からも嫌われる自分を、この男だけは喜んで友達に迎えてくれる。それが何とも嬉しく、これまでこんな聖人を親の仇のように憎んでいた自分が恥ずかしく思えた。
「転校生……」
「カモンベイビー、転校生じゃなくてさ、わたあめって読んでよ」
 鼻水を垂らしこちらを見るカモンベイビーを、わたあめは満点の笑みで返した。
「てめえら……よくもやってくれたももな……」
 壁をよじ登り、もも男が再び屋根の上に姿を現す。この高さから落下し眼鏡も割れているにも関わらずそれだけの体力があるのは、ももだ食いの力か。
「絶対に許さん! ぶっ殺してやるもも!」
 もも男はわたあめをぶん殴る。わたあめは屋根の端まで吹っ飛ばされ、先程のカモンベイビーと同じように右手一つでぶら下がった。
「もーっもっもっも、お前はこの前も俺様をぶっ飛ばしてくれたわたの一族ももな。お前はがっつり苦しめて死なせてやるもも」
 わたあめの右手を踏みつけ、もも男は笑う。
 わたあめは歯を食いしばり必至に堪える。わたさえあれば、落ちてもわたをクッションにしてダメージを抑えられるが、先程のわた投げでわたは消費してしまった。右手は屋根の端を掴んでもも男に踏まれており、両手を合わせることができないからわた再生もできない。落ちながらわたを再生するという手もあるが、果たして間に合うかどうか。
「おい、そこのお前」
 もも男はカモンベイビーを指差して言う。
「とどめはお前が刺すもも。友達に殺されるとか最高に苦しむに違いないもも」
「なっ……!」
「そうだもも、もしお前がとどめを刺せば、お前の命だけは助けてやるもも。ついでにゾウラ族の仲間にしてやってもいいもも」
 カモンベイビーは、滝のような汗を流していた。わたあめを倒すことは、ずっと念願だった。わたあめが消えれば、今までの失態を無に帰し、再び自分の天下を作ることも不可能ではない。だが、こんな形でわたあめを倒すことが本当に自分の望みなのか。そして、ただ一人自分と友達になりたいと言ってくれたわたあめを、裏切ってよいものなのか。
「さあ、とどめを刺すもも!」
 鼓動がバクバクと音を立てる。もも男とわたあめが、どんどん遠ざかっていくように見える。呼吸は荒くなり、今にも倒れそうになった。むしろ、今ここで気を失ってしまえばどんなに楽だったか。
「カモン……ベイビー……」
 力無い声で、わたあめが言った。わたあめの指が、少しずつずり落ちていくのが見えた。
「……わたあめっ!!!」
 カモンベイビーの拳が、もも男の後頭部をぶん殴った。
「ももーっ!?」
 もも男はわたあめを飛び越え、再び落下していった。
「今助けるッ!」
 わたあめの手首を掴み、カモンベイビーは屋根の上に引き上げた。
「カモンベイビー、助けてくれたんだね!」
「フン、あんな野郎にお前を倒されたら、たまったものじゃないからな」
 歓喜に浮かぶわたあめ。カモンベイビーも、心なしか笑顔になっていた。
「お前ら……二度も落とすとか絶対許さんもも!」
 怒りに燃えるもも男が、ストリアの背に乗りまたしても二人に襲い掛かる。
「行けぇ! ストリア軍団第二陣!」
 再び飛来する、ストリアの大群。
「戦おうカモンベイビー!」
「俺に命令するな! 行くぞわたあめ!」
 わたあめとカモンベイビーは背中合わせに立つ。わたあめはわた再生をし、わたたきパンチでストリアを次々に叩き落す。カモンベイビーもまた、パンチやキックで戦う。
 そんな中、カモンベイビーの心の中に不思議な感覚が芽生えた。何故そう思ったのかはわからないが、今ならあれを使えるかもしれない、と。
 懐のホルスターから真っ赤な銃を取り出し、ストリアの飛び交う空に向ける。
「喰らえ必殺・カモンブラスター!」


 引き金を引くと、銃口から強烈なビームが発射。ビームは次々とストリアを貫き、爆散させてゆく。
「も、ももーっ!?」
 これにはもも男も驚愕。まさかの隠し玉に、あんぐりと口を開けていた。
「こ、こうなったら……ももストリーム!」
 もも男も、最後の切り札と言わんばかりに大技を見せる。すかさず、もも男に銃口が向けられた。
「カモンブラスター!」
 ビームとビームのぶつかり合い。だが、勝ったのはカモンブラスター。ももストリームを押し返し、もも男を巻き込んで大爆発。もも男は、空高く飛ばされて星となった。
「覚えてるもも〜っ!」

 もも男を倒した二人は、疲れきってその場に座り込んでしまった。そして、二人顔を見合わせ急に笑い出した。
「おーい、わたあめー!」
 ふと聞こえた声に下を見下ろすと、カラリオ達五人が城の門まで来ていた。
「あっ、カラリオ達だ。おーい、ここまでおいでよー!」
 わたあめに呼ばれ、カラリオは空を飛んで屋根の上まで来た。キツネ男と友人トリオは、城の中を通って来た。
「見てよ、ここすっごくいい眺めだよ!」
「お、おう」
 わたあめも先程気付いたばかりだが、わたわ町全体が見渡せるこの場所からの眺めは、素晴らしい絶景だった。
 あまりにも能天気なわたあめに、カラリオ達はぽかんとしていた。
「ねえカラリオ、君の家に、カモンベイビーも連れて行っていいかな?」
「え、カモンベイビーを!?」
 カラリオは、ぎょっとしてカモンベイビーの方を向いた。カモンベイビーは、照れくさそうにうつむいた。
「友達になったんだ。だから、もういいでしょ」
「……まあ、わたあめが言うならいいけどよ」
 カラリオは一旦友人トリオ達と目を合わせた後、わたあめの方を見て言った。
「そうと決まったら、さあ行こう。最新ゲーム、楽しみだね。ほら、カモンベイビーも」
 わたあめ達はさっさと城を出て、カラリオの家へと歩き出した。わたあめに手を引かれてついていくカモンベイビーは、これまでにないほど嬉しそうだった。
「勘違いするなよわたあめ。俺はお前の友達になってやるが、お前を倒したいと思ってることに変わりは無いんだからな。まずはそのゲームで、お前を倒す!」

 大人達は、城の会議室からその様子を見守っていた。
「まさかカモンベイビーに友達ができるなんて……流石は田中博士だな」
「いえいえ、私は銃を作っただけです」
 感心して目を潤ませるカモンキングに、田中博士が答えた。
「誰とでも友達になってしまうのが、わたあめのいいところなのじゃ。流石、わしの息子」
 オヤジはうんうんと満足げに唸っていた。
 先程まで怖い顔で会議をしていた大人達は皆、わたあめ達の後姿を見て優しい顔になっていた。
 

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