第15話 ゾウラ族襲来！
「わ、わたの一族もも！？」
思わぬ相手の登場により、もも男は動揺した。わたあめは、もも男をじっと睨みつける。
「も、もも……生き残りがいるのは聞いていたが、まさかこんなところで会うことになるとは」
「ゾウラ族のもも男、君は一体何が目的でここに来たの？ どうしてこんな酷いことをするんだよ！」
「どうしてかって？ そんなことは決まってるもも。この世界を支配するためだもも！」
「支配するって……何でそんなことするのさ！」
「下っ端の俺様が知るかもも。ゾウラ族は昔からそうだって決まってるもも」
二人が話をしている間、係員は観客が戦闘に巻き込まれないよう必死で非難を誘導する。カモンクイーンの助けもあり、次第に観客は落ち着きを取り戻し、安全にコロシアムの外へと退避していった。
周りから人がいなくなったのを確認すると、わたあめは戦闘態勢に入る。
「君がこれ以上酷いことを続けるというのなら、僕は君を倒す！」
「やってみるもも。たとえわたの一族だろうと、俺様の敵じゃないもも。ももだ食い！」
もも男はももを食べ、体を黄金に光らせる。
「一撃でぶっ殺してやるもも！ ももパンチ！」
もも男は飛び降りるや否や、黄金の拳をわたあめ目掛けて突き出す。わたあめはわたを膨らませふんわりガードをするが、パンチの威力は強く衝撃で後ろに飛ばされる。
「くっ……！」
「まだまだいくもも！」
飛び掛るもも男。わたあめはしゃがみ、カウンターのわたたきパンチ。
「もげっ」
大きな顔の真ん中を殴られ、もも男は奇妙な悲鳴を上げる。わたあめは続けてわたに足を挿し、わたたキックを繰り出す。
「そうはいかないもも！」
もも男は後ろに跳んでかわし、口を大きく開く。
「もも……ストリーム！」
稲妻をも凌駕する黄金のビームが、爆音を立てて放たれる。ふんわりガードでは防ぎきれないと察したわたあめは、思いっきり横に跳んで避ける。
ももストリームはわたあめの数センチ横を通る。観客席を抉りながら、バトルフィールドの端を粉砕する。直接当たらなくても伝わってくる衝撃。空気がぴりぴりと震えた。だがごつごつあめは、まるで動じることなくわたろうを攻撃し続ける。
「ちっ、外したかもも」
もも男の体色が桃色に戻る。わたあめは間近で感じるももストリームの威力に怖気づき、体が硬直してしまった。もも男はその隙に再びももだ食いをする。
「とどめだもも」
もも男は口を開く。口内のエネルギーは膨れ上がり、黄金の光が漏れる。わたあめは体が動かず、死を覚悟した。
その時だった。突如響き渡る、謎の轟音。酷く耳障りで馬鹿でかいこの音の正体は。
「カッラ〜〜〜〜〜リオ〜〜〜〜〜！ カラのよおぉ〜〜〜〜〜にぃ〜〜〜〜〜！」
「もげーっ、何だももこの酷い歌は！」
上空を飛び回り、気持ちよさそうに歌うカラリオ。もも男はあまりの五月蝿さに耳を塞いだ。
「助けにきたぜ、わたあめ」
カラリオは一曲歌い終えると、わたあめの前に降り立つ。
「カラリオ、どうしてここに！？」
「友達のピンチをほおっておくほど薄情な男じゃないぜ、俺は」
カラリオは親指を立て、ニヤリと笑みを浮かべて振り返った。
「兄ちゃん、やっと追いついた！」
わたあめの後ろに、わたぴよが息を切らしながら立っていた。
「俺達もいるぞ！」
更にその後ろで、友人トリオが揃って構えている。
「みんな、一緒に戦ってくれるんだね！」
「おうよ！」
戦線に加わった仲間達と共に、わたあめは身構える。もも男は歯を食いしばり、敵が増えたことに焦っていた。
「ちいっ、何人増えても同じだもも！」
次の桃を取り出し、それをかじろうとする。だが、後ろから透明の何かが飛んできてその桃を粉砕した。
「何だもも！？」
もも男は振り返る。わたあめは、桃を粉砕したそれが地面に落ちたところを拾った。
それは、眼鏡のレンズだった。
「皆さん、そいつに桃を食べさせてはいけません！」
遠くから叫ぶのはメガネ男。
「そいつはももストリームを一度撃ったら、桃を食べてエネルギーを回復しないともう一度撃てないのです！」
「メガネ男、君も来てくれたんだね！」
「はい、弱い僕にもできることを、精一杯やるつもりです！」
メガネ男はそう言うと、ノートパソコンに計算式を次々と入力し、もも男の戦闘力を計測し始めた。
「くっ、小賢しいもも！」
もも男はわたあめに背を向け、メガネ男の方に走り出す。
「メガネ男、危ない！」
わたあめが叫ぶ。だが、もも男はメガネ男の下に辿り着く前に割り込んだ一筋の黄色い影によって突き飛ばされる。
「お前ら面白そうなことやってるコンな。俺も混ぜるコン」
「キツネ男さん！？」
誰よりも驚いたのは、メガネ男だった。
キツネ男はコンマーを片手に、不敵に笑って立っていた。
「メガネ男、戦いは俺達に任せて、お前はデータの計測に専念するコン」
「わかりました！」
「キツネ男、君と一緒に戦えて嬉しいよ！」
わたあめはキツネ男に握手を求めた。キツネ男は快くそれに応じる。
「わたあめ、お前との試合は気持ちのいいバトルだったコン。だから今度は、仲間として戦わせてもらうコン」
一気に味方が増えたことで、わたあめは急に心強くなった。
「よーし、行くよ皆！ もも男をやっつけよう！」
「おーっ！」
わたあめ達は全員でもも男を囲む。
「ももーっ、お前らそれだけの人数で一人をいじめるとか卑怯だもも！」
「悪者をやっつけるのに卑怯もクソもあるかコン」
コンマーでひたすらもも男を殴りまくるキツネ男。逃げようとするもも男を、わたぴよの殺し屋ドリルくっちーばっしーが襲う。
「隠れるもも！」
もも男は瓦礫の後ろに隠れる。わたぴよの嘴は瓦礫に突き刺さった。
「今だもも、ももだ食い！」
急いでももだ食いを済ませ、黄金になったもも男が瓦礫から姿を現す。
「これでもうお前らの好きにはさせないもも。ももストリーム！」
「そうはさせるか！」
ももストリームに対して立ち上がったのは、なんと友人トリオ。
「今こそ見せるときだ、俺達の合体技！」
三人は右手を前に出し、手と手を重ね合わせる。
「超合体必殺技・友情バースト！」
三人の手から三色のビームが放たれ、一つの巨大な光となる。その力強さは、ももストリームにも負けず劣らず。ビームとビームがぶつかり合い、壮絶な押し合い合戦。三人は掌に力を籠める。
「うおおおお、負けるかーっ！」
「頑張れ！ 友人トリオ！」
わたあめの応援に、友人トリオはカッと目を見開く。友情バーストの威力がぐんと上がり、ももストリームを押し返す。
「これが！」
「俺達の！」
「友情パワーだ！」
「もぎょえーっ！」
友情バーストとももストリームの二重のダメージを受け、もも男は吹っ飛ぶ。後ろの壁に叩きつけられ、口から血の代わりに果汁を吐いた。
「凄いや友人トリオ！ こんな技を隠し持ってたなんて！」
「俺達は三人揃ってこそ真の力を発揮するんだ」
「わたわ武闘会は一対一だから使えなかったけどな」
「それより助かったぜわたあめ。友情バーストは友情をエネルギーに変える技。お前の友情が加わったお陰で、あいつに勝てたぜ！」
喜ぶ友人トリオ。しかし、わたあめははっと気がつく。
「危ない！ 避けて！」
黄金に輝くもも男の拳が、友人トリオを三人纏めてぶっ飛ばした。
「ぐわあーっ！」
三人は観客席の背に全身を打ちつけ、気を失ってしまった。
「く……これが最後の桃だもも」
もも男はボロボロになりながらも、全身で怒りを露にしわたあめ達に歩み寄る。
「気をつけてください！ ももだ食いをしたそいつは、格闘能力も上がってるんです！」
メガネ男が叫ぶ。
「喰らえ！ カラブリキック！」
空中から攻めるカラリオ。だがもも男は突如逆立ちをし出す。
「もも・ザ・逆立ちキック！」
逆立ちのまま左足を高く上げ、カラリオの腹を蹴り上げる。思わぬ不意打ちを受け、カラリオは地面に落下した。
「がはっ……カラァ……」
腹を押さえ、悶え苦しむカラリオ。
「わたぴよ、挟み撃ちにするコン！」
「わかったよキツネ男さん！」
キツネ男がもも男の右に立ち縦回転、わたぴよが左に立ち横回転。
「コンマーハリケーン！」
「殺し屋ドリルくっちーばっしー！」
ぶつかり合う瞬間に、もも男は跳び上がる。キツネ男とわたぴよは正面衝突。互いを攻撃してしまった。
「ゴンッ……」
「ごめんキツネ男さん……」
よろめいた所に、もも男は両拳で二人をぶん殴る。二人を倒したところで、最後に残ったわたあめに狙いを絞る。
「さあ、次はお前の番だもも！」
わたあめはもも男のももパンチをふんわりガードで受け、踏ん張って耐える。もも男は更に続けてパンチを出す。
「コンマー！」
キツネ男が、倒れながらもコンマーでもも男の足を払う。バランスを崩し倒れたところに、カラリオとわたぴよが掴みかかる。
「わたあめ、今のうちに！」
「で、でも僕には友情バーストみたいな大技は……」
わたあめがもたもたしているうちに、二人を跳ね除けもも男は立ち上がる。
「わたあめ、何やってるコン！」
「うう……こうなったら、あれを使うしかない！ カモンベイビーとの決勝のためにとっておくつもりだった、あの技を！」
わたあめはわたを両手で掴み、頭上に掲げる。
「この技は出すまで時間がかかるんだ。みんなごめん、しばらく時間を稼いで！」
「わかったぜ！」
「任せて兄ちゃん！」
「これでショボい技だったら承知しないコン！」
三人は満身創痍の体で立ち上がり、もも男の前に立ちはだかる。
「そいつは先程、これが最後の桃だと言いました。ということはもう易々とももストリームを撃ってこないはずです。恐らく奴の狙いは、全員を動けなくしてももストリームで纏めて倒すことでしょう。皆さん、注意してください！」
メガネ男のアドバイスを受けつつ、三人はもも男をわたあめの方に行かせないよう戦う。その後ろで、わたあめは頭上に掲げたわたにエネルギーを溜めていく。
わたは少しずつ大きくなってゆく。普段のようにただ膨らますだけではなく、膨大なエネルギーによって自然と膨れ上がるのだ。
一方その頃、わたろうとごつごつあめは、まだ戦いを続けていた。
「離せごつごつあめ！ 今はお前なんかと戦っている場合じゃないんだ！」
何時まで経っても逃がしてくれないごつごつあめに、わたろうは次第に苛立ち始め、いつもの余裕を無くしつつあった。
「ふざけるなわたろう！ お前の相手は俺だろうが！」
ごつごつと石を掴んだ腕を振り回し、わたろうを逃がさぬよう休まず攻撃を繰り返すごつごつあめ。鋭く尖った目には、小さな涙が浮かんでいた。
「お前も次男わたあめと同じか！ あいつは俺と戦っているのにカモンベイビーカモンベイビーと……そしてお前はゾウラ族ゾウラ族と！ お前らは何で俺のことを見ない！ 俺はずっとわたの一族と戦うことだけを考えてきたのに……何でお前らは俺を無視するんだ！ お前らにとって、ごつごつの一族なんてどうでもいい存在だってのかよ！ もっと俺のことを見ろよ！ もっとごつごつの一族のことを見ろよーっ！」
「ハッ、どうでもいい」
泣き叫びながら連打するごつごつあめを、わたろうは冷たくあしらう。ごつごつあめを床に叩きつけ、わたろうはバトルフィールドを去ろうとする。
「逃がさねえ……」
ごつごつあめは、わたろうの足首を掴んだ。その顔は泣きじゃくりクシャクシャになっていた。
「離せ！ 俺をゾウラ族と戦わせろ！」
わたろうはごつごつあめを引き剥がそうと、地団駄を踏むようにごつごつあめの頭を踏みつける。
「そんなに行きたいのなら……俺を倒してから行けーっ！」
滝のような涙を流し、喉が切れる程の絶叫。見下ろすわたろうの目が、ギラリと光った。
「みんな、準備はできた！ 避けて！」
わたあめの声に呼応し、三人は横に退避する。わたあめの持つわたは元の何十倍にも膨れ上がり、最早わたというより雲といった風貌だった。
わたあめはその巨大なわたを、担ぎ上げるようにして投げつける。
「たー、めー、投げーっ！」
もも男は飛んでくるわたを、ギリギリと歯軋りしながら迎え撃つ。
「こうなったらこっちも最後の手段だもも！ ももストリーム！」
正面からぶつかり合うため投げとももストリーム。だが、ため投げの凄まじい威力の前にはももストリームでさえ無力。軽く押し返され、もも男はわたに押し潰される。
「も、もげぇーっ！」
そしてわたは大爆発。もも男は空の彼方に吹き飛んでいき、星となった。
「や、やった！ 本当にやった！」
カラリオ、わたぴよ、キツネ男の三人は全身傷だらけで、もう立ち上がれない様子だった。そしてわたあめも、疲れ切って腰を抜かしてしまった。
「おーい、わたあめー！」
観客席の出入り口から、わたろうの声がした。
「あっ、兄さん！」
「ゾウラ族はどうした？」
わたろうはわたあめの下に駆け寄ると、ゾウラ族を探しキョロキョロと辺りを見回した。
「ゾウラ族なら、僕達がやっつけたよ」
わたあめの言葉に、わたろうは目を丸くした。
「……凄いな、お前達皆で戦ったのか」
カラリオ達は、ヘヘと笑った。友人トリオも目を覚まし、もも男がいなくなったことに気付いてほっと胸を撫で下ろした。
「ねえ兄さん、それより、試合の方はどうなったの？」
わたあめは、わたろうに肩を貸してもらいながら立ち上がった。わたろうは、バトルフィールドの方を指差す。
そこには、白目を向きボロ雑巾のように倒れるごつごつあめの姿があった。
「兄さん、優勝おめでとう！」
「……ああ」
わたろうは、何故かあまり嬉しくなさそうだった。
もも男のコロシアム襲撃事件は、奇跡的に死者は一人も出なかった。
わたわ武闘会の表彰式は、数日後に行われた。
修理は完了していなかったが、それでも人々はこの表彰式を見るためにコロシアムに集まった。
トロフィーと賞金百万円を手にしたわたろうには、笑顔がなかった。
そしてその表彰式にも、カモンベイビーの姿はなかった。
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